22人が本棚に入れています
本棚に追加
/120ページ
平安末期。そこには現代に伝わるような源氏と平家の間に諍いなどなかった。
台頭してきた武家勢力を面白く思っていなかった、皇族や貴族達にけしかけられて相討ちさせられそうになってたけど。
でも武家のみんなは知恵を絞ってそれをかい潜り、そしてやがて武家が主体となる政治の礎である鎌倉幕府を作るに至ったの。
源氏が平家をやっつけようとしていたことが史実として伝わってしまっているのは…… まぁ、「ある男」に原因があるのですけど。
壇ノ浦は、本当は源氏と平家が最終的な協定を結ぶための重要な場所だった。でも瀬戸内を牛耳っていた海賊の裏切りに遭って、それでころではなくなってしまった。
それを時の権力者である後白河法皇に、嘘の報告をした男がいたのね。平家は滅亡にこそ失敗したものの、みんな西国── 九州に逃げて行った、って。
現代では壇ノ浦で入水して露と消えたと伝わっている言仁くんだけど。本当は助かって母親である徳子ちゃんとともに、京都の北にある大原の寂光院で過ごしたのよ。
私はその一部始終を見てきたんだから間違いない。それに、壇ノ浦から京都まで徳子ちゃんと言仁くんをお連れしたのは、何を隠そうこの私だし!
まあ、そんなこんなのご縁があって。私は今でもこうして徳子ちゃんや言仁くん達と仲良くさせてもらっているってわけ。
あ、そうそう。言仁くん達の存在を視ることができて、そしてこうしてお話ができるのは、私だけなのです。あ…… もう一人いた。それが我が愚息である義顕なの。
「義顕ねぇ、昨日から高校に通い始めちゃったからね。帰りが遅くなるから、ここには寄らないかもよ」
「つまらぬ~、義顕がいないと、つまらぬ~」
私の血のせいなのか、義顕も物心が付いた時から言仁くん達のことが視えていたみたい。そのお陰で言仁くんは遊び相手になってくれたし、徳子ちゃんは子守もしてくれた。
みんなは800年前の姿のままだけど、私達は歳を取るからね。義顕だって、いつまでも言仁くんとばかり遊んでもいられない。
って、幼い言仁くんにはわからないか。
最初のコメントを投稿しよう!