第三章 視えない能力

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 落ち着かせるように深呼吸をした喜一さんが、やがて口を開く。 「ひとつ確認だけど、祥恵さん。ここには九郎殿、建礼門院様、安徳帝が間違いなくいらっしゃるんだよね」 「私もいますよ」  もう一人。霧とともに現れたのは二位の尼さま。 「うん。たった今、尼さまもご到着……」 「彼らに、僕の声は聞こえているんだろうか……」  私が見渡すと、みんなが次々に頷く。 「ええ。聞こえてるって」 「では改めまして。建礼門院様、安徳帝、二位の尼様、そして九郎殿。  どうやら愚息、義顕は、あなた達の御姿を視ることができなくなってしまったようです。私はこれを、黒谷家という祓い屋一族の仕業だと考えます。  黒谷家は代々、(アヤカシ)物怪(もののけ)を強い術によって蹴散らすことを生業としている一族。その術は我々生身の人間にとっても、非常に危険なものです。  一説にその能力は、似たような者が持つ力を吸収して強くなると聞いたことがあります。もしかしたら義顕は、その餌食とされたのかも知れません。  義顕はあなた達を視る能力を奪われたばかりでなく、ご覧のとおりの衰弱ぶり。  皆様の御力添えを頂戴し、なんとか義顕をもとの健康な姿に戻してあげたいのですが……」  そう言って喜一さんは深々と頭を下げる。 「主上(おかみ)や建礼門院どの、奥方様達に、その祓い屋の力は毒が強すぎるだろう。喜三太、ここは僕が一手に引き受けよう」 「喜一さん、九郎が引き受けてくれるって」 「しかし九郎殿。殿のお身体(からだ)も、祓い屋の力に耐えられるかどうか……」  喜一さんの言葉に、九郎はクスッと笑う。 「僕を誰だと思ってるんだ?喜三太。いいよ、受けて立とう。この九郎左衛門少尉(さえもんのしょうじょう)義経、目にもの見せてくれるわい!」 「…… あんまり調子に乗るんじゃねーぞ、九郎」 「祥恵さん…… 九郎殿はなんて」 「ええ。我が身に代えてでも義顕の力を取り戻してくれる、って。なんて心強いのでしょう!」 「おい!そこまで言ってないよ!」
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