第三章 視えない能力

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*  やがて数日後の夕方。自分の部屋で療養をしている義顕が携帯端末を持ってキッチンに現れる。 「ママ、瑞季ちゃんからメッセージが来た!」  義顕が見せてくれる端末には画面一杯に可愛らしい手書きの字で、こう書かれてある。 《よしあきー、しばらく学校に来てないけど、そんなに具合悪いの?大丈夫?お見舞いに行ってやろうか? みずき》  喰いついた!私はその文章に、思わずニヤケてしまった。 「よし!義顕、作戦決行!」  義顕は「ラジャー!」と敬礼をしてからダイニングに座り、作戦どおりのメッセージを瑞季ちゃんに書き始めたようだ。  学校を休ませてからと言うもの。瑞季ちゃんとの接触がないせいか、自分も自覚しているから無理にでも栄養を摂ろうとしているせいなのか。  少し頬の肉付きも血色も、良くなって来ているような気がする。  そんな義顕はリビングに移り、ソファーでテレビを見ていたかと思うと、再び私を呼ぶ。 「返事が来た。明日の放課後、神社に行くって」  よっしゃ!決戦は明日。賽は投げられた。見てろよ、祓い屋一族め。源九郎判官義経と、その軍師喜三太、切込隊長の橘似(←嘘です)を敵に回したことを、イヤと言うほど後悔させてやるんだから!  翌日。瑞季ちゃんと約束を交わした時刻より少し前に現れた義顕と、桜の樹の下に立つ。  目の前に九郎が立っているけど…… やっぱり義顕には視えていないのね。 「ねえ、ママ。九郎さんって、ここにいるの?」  不安そうな義顕が訊ねる。 「ええ。いるよ。大丈夫、あとは九郎に任せなさい。じゃ、ママは行くわね」  大人が── と言うより第三者がいると、相手も構えてしまうだろうから。ここは(見た目)二人きりを装うため、私は拝殿の影に隠れる。  やがて正面の石段を昇り、鳥居をくぐって制服姿の可愛らしい女の子が境内へとやって来る。  ちょっと目がキツそうだけど、本当に可愛らしいお嬢さん。こりゃあ、我が愚息も魂を抜かれるわけだ。
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