第三章 視えない能力

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「継信?お前、継信なのか?」  喜一さんが、自分の腕の中で目をパチクリさせている義顕の肩を揺さぶる。  佐藤(さとう)三郎(さぶろう)兵衛(ひょうえ)継信(つぐのぶ)。東北の飯坂── 今の福島市あたりを治めていた豪族、佐藤基治(もとはる)の息子。  生まれは父が治める飯坂だけど、主君である藤原秀衡のもとで英才教育をと、弟の忠信(ただのぶ)とともに平泉の別宅で育つ。  そんな折りに私が鞍馬寺から九郎を連れて行ったものだから、みんなで仲良く暮らして。やがて兄弟は九郎に忠誠を誓い、行動を共にすることになる。  兄、継信は現代に伝わる史実で言うところの「屋島の合戦」で。船上の水軍が勇み足で放った矢に首元を射抜かれて壮絶な最期を遂げた。  平家物語にはその様子が詳細に記されていて。かなり着色されてはいるものの、その勇姿を読み解くことができる。  そんな継信くんが、今の出来事をきっかけに目覚めてしまった? 「コラ!九郎。余計なことしてくれて…… 早く元の義顕に戻してよ!」 「わかった…… ゴメン、橘似」  九郎は義顕に近寄ると、そっとその額に手を近付ける。 「ゴメン、継信。また今までどおり、眠り続けてくれ……」 「あれ?パパ。九郎さん?え?九郎さん?俺、また視れるようになったの?」  九郎が額の前に置いていた手を引くと、義顕は元の状態に戻ったのだろうか。そんなことを言って喜一さんの腕の中から立ち上がろうとする。 「大丈夫なのか?義顕」 「うん…… 大丈夫」  立ち上がった義顕が、服に付いた汚れを手で叩いて落とし始める。そして…… 「瑞季ちゃん…… 気を失っているの?」  義顕は私の元までやって来て、目を閉じている瑞季ちゃんの端整な顔を覗き込む。 「…… 起きてるよ」 「良かった……」 「瑞季ちゃん、大丈夫?立てる?あらあら、制服が汚れちゃったね」  私の腕から立ち上がった瑞季ちゃん。スカートについてしまった汚れを、私は手で払う。 「社務所で落ち着いて話そうか。お茶でも飲みながら」 「そうね。瑞季ちゃんもいらっしゃい。じゃ、九郎。そーゆーことで。詳しい話とお礼は後でね」
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