第三章 視えない能力

19/21
前へ
/120ページ
次へ
 九郎が言うには。  九郎のような存在は、人間が持つ不思議な能力── 今回の件で言うところの、瑞季ちゃんが吸い取ってしまった義顕の能力は、いとも簡単に操れるのだと言う。  生身の人間である瑞季ちゃんは、厳しい修行の果てにようやく手に入れることができた力だと言うのに……  ただし、それは第三者間── AさんからBさんへ移動させることはできない。あくまで自分を中心に、奪うか与えるか。のようだ。  なので、九郎には義顕の身体(からだ)に乗り移る必要があった。  でも、乗り移った瞬間に。九郎は瑞季ちゃんが、義顕にその能力を返そうとしているのを感じたそうだ。  なので九郎が使った術は、義顕の記憶を消そうとしたものに対して使われた。  そう言えば、さっき瑞季ちゃんは。自分の素性を明かされたから、咄嗟に義顕の記憶を消そうとした。って言ってたっけ。  それは義顕の全ての記憶なのか、瑞季ちゃんだけに関するものなのか。今となっては、瑞季ちゃんに()いてみないとわからないけど。  九郎は瞬時に。瑞季ちゃんから発せられた術から、義顕の記憶を消そうとする成分だけを相殺したのだそうだ。  それが上手く発動しなかったからか。義顕は継信くんの人格を持って目覚めてしまった。  あとは、さっき見たとおり。それはマズいと思った九郎による別の術によって、義顕は本来あるべき姿を取り戻した。 「ありがとう、九郎さん。九郎さんがいなかったら、俺は今頃……」 「いや、それは違うな、義顕」  義顕がお礼を言って頭を下げようとした時に、九郎はそれを遮る。ん?どしたの? 「こたびは結果的に上手く行ったけど。義顕がもっと、あの女子(おなご)のことを理解しようと努めていたら、義顕一人でも解決できたかも知れない。  僕はね、義顕。どんな時も、相手がどう考えているのか。どうやったら相手のためにも自分のためにもなるのか。それを考えて戦乱の世を渡って来たつもりだ。
/120ページ

最初のコメントを投稿しよう!

22人が本棚に入れています
本棚に追加