第三章 視えない能力

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 こうしてこの境内から眺めているだけだけど。この時代の人達も、僕達の時代に負けないくらい何かと戦っているような気がしてならないんだ。  弓矢や刀で勝負したら、明暗はハッキリするんだろうけど。そんなことでは計れない、もっと複雑な何かと戦っているような気がする。  ここを訪れる参拝者を見ていて、そう思ったんだ。義顕、産まれた時からずっとお前を見てきたから僕にはわかる。  お前はこの時代を生き抜くための、見えない何かと戦う力とともに、他人のことを考えられる優しい心も兼ね揃えている。  義顕、人を見よ。そしてその人が何を思って、何を考えているのか考えよ。  そしてその人のために、自分が自身の持つ力で、何ができるのかを考えて行動を起こすのだ。お前をずっと見てきた僕にはわかる。お前にならできる。  幸いにも義顕には、強く優しい両親がいるではないか。なんでも相談するが良い。もし両親に言いにくいことだったら、僕に言えばいい。  神職を志す以上、今日のようなことは度々起こるぞ。そのたびに、相手のことを考えるのだ。  僕がここで見ている限り、この文明が発達した時代で人々がなくしてしまったと思われる、大切なものを義顕はまだ持っているようだ。自分を信じろ。わかるか?」  そうよ、義顕。私も九郎と同じ時代を生きてきたから、今の話が手に取るようにわかる。  この時代の人達は文明を使いこなして生き抜いていくために、自分自身としか戦っていない。そんな世の中がイヤで、私はこの水天宮に嫁いだようなもの。  だから私も喜一さんも、義顕には相手の気持ちがわかってくれるような人に。って育てたつもり。九郎もそれをわかってくれていたのね。 「そうね、義顕。まずは瑞季ちゃんを大切にしなさい。黒谷一族がどんな危険な術を使っているのか知らないけど。  そんなものを使わなくても素晴らしい祓い屋になれるように、あなたがサポートするの。できるよね」  肩にそっと手を置くと、義顕は力強く頷いた。 「わかった。できることからやってみるよ。そしてパパやママ、九郎さんのようになれるように、もっともっと自分を磨く。立派な神職になるために」
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