第三章 視えない能力

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*  次の日から、義顕はまた元気に高校に通い始めた。  そしてたまに放課後にここへ来て、瑞季ちゃんとお喋りをしている姿を目にするようになった。  九郎から言われたことの受け売りかも知れないけど。義顕は学校で瑞季ちゃんに会ってすぐに、立派な祓い屋になれるように手助けをしたいと告げたらしい。  季節はすっかり初夏だけど。ウチの愚息には春が来たみたい。おめでたいこって……  邪魔してやろうと思ったわけではないのだけど。社務所でお茶でもいかが?って二人に話しかけてみたら。 「義顕くんから聞いたのですけど。義顕くんの能力って、お母様譲りなのですね。なんでもここの神様が視えるとか。すごーい!ぜひお母様とお話がしたかったんです!」  って、瑞季ちゃんは目をキラキラさせちゃって。  おいおい、義顕。オマエはいったい、瑞季ちゃんにどんな話をしたんだ。 「いいわよ。ささ、いらっしゃい」  二人に手招きをすると、そこにいた九郎が寂しそうな顔をするので。声に出さずに口だけで「バイバイ」と言って背中を向ける。 「お母様。水天宮は建礼門院と安徳帝を祀っているところが多いようですけど、ここもそうなんですか?」 「ええ、そうよ。どうしてその二人か知ってる?」 「え~?どうしてなんですか~?」  社務所へ向かっている時からも、私に話しかけて来る瑞季ちゃん。いやぁ…… こんなに可愛い子に「お母様」なんて呼ばれると、なんだか恥ずかしいですな。  巫女服を着た私と、祓い屋の卵の瑞季ちゃん。そんな二人が楽しそうに話しながら去って行く背中を見ている九郎って、どんなふうに感じているのかしら。  振り向かなくても、あの特徴的な歯茎を全開にしてポカンと口を開けてアホ面しているのが目に浮かぶわ。
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