第四章 過去からの訪問者

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第四章 過去からの訪問者

 出勤のために裏の駐車場にあるエレベーターに向かおうとすると。駐車場に酒屋さんのトラックが停まっているのが見えた。  神社に神酒の樽酒を寄贈、奉納してくれる地元の名士もいらっしゃるので。その酒屋さんとウチの水天宮は、切っても切れない間柄。  しかも、ウチの家族は揃いも揃って呑兵衛(のんべえ)ですからね。自宅のお酒もそこで購入して、配達もしてもらっている。  トラックの荷台から電動のリフトを使って、手押しの台車に載せた樽酒を降ろしているのは、今まで見たことのない人。  いつもは小柄でポッチャリした店員さんが運んでくれるのですけど、今日は背が高くて細身の男性。長い髪を(うなじ)のところでひとつに束ねている。  エレベーターに向かおうとしていたら目が合ってしまったので。反射的にお辞儀をする。 「あの…… 神社への納品でしたら、このエレベーターで」  もしかしたらと思って話しかけたら。片方だけ口角を上げて笑うと、その人は台車を押して私に近付いて来た。 「神社のかたですか?助かりました。あの石段を、この樽を担いで昇らなければいけないのかと思って」  彼がエレベーターに乗り込むのを待って上階のボタンを押すと、そんなことを言われてしまった。やっぱり…… 初めてウチに来た人だったのね。 「ええ、ここは水天宮ですから。身重の女性や、ベビーカーで参拝されるかたも多いので。どうぞご自由に使ってくださいね」  境内に到着したエレベーターの扉が開く。初めてここを訪れたのであろう、酒屋さんの人を納品口まで案内してから、社務所へと向かう。  巫女服に着替えてから、まずは掃除のために境内に出る。すると、いつもの桜の樹の下に。九郎が不思議そうな顔をして立っているので、箒を持ったまま近付く。 「どうしたの?そんな顔をして」  九郎は顎に手を置いて、「んん……」と呟いて社務所のほうを見ている。
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