第四章 過去からの訪問者

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「さっき橘似と一緒に現れた、荷車を押したヤツだけど。なんか気になって……」  九郎が気になるって、もしかして…… 「まさか、またどこかで会ったことがある。なんて言わないでしょうねぇ」 「んん…… そのまさかかも知れない。なんかこう…… どこか懐かしいような匂いがしたような気が」  懐かしさを感じるって…… 政子ちゃんの時みたいに、また九郎や私達が知ってる、あの時代の魂を宿した人が現れたって言うの?  あの酒屋の人が、私達が知っている誰かだと言うの? 「祥恵よ……」  私の近くで青白い(もや)のようなものが人の形になり、徳子(トッコ)ちゃんが現れる。 「どうしたの?徳子(トッコ)ちゃん」 「ええ。少し話をしても良いかのぅ」  徳子(トッコ)ちゃんはそう言って、社務所のほうに目をやる。 「わかった。じゃ、九郎。またね」  九郎に手を振り、私は徳子(トッコ)ちゃんを従えて社務所に向かう。  桜の樹の下に九郎がいることを、徳子(トッコ)ちゃんも知っているはずだから。  彼女が私をその場から離そうと合図をしたと言うことは、九郎のいない場所で、2人だけで話したいことがあるんだと思った。  社務所の壁に持っていた箒を立てかけて。誰も来ないはずの、社務所の裏側へと行く。 「さっき、神酒を持って来た酒屋の男。初めて見るようじゃが、祥恵の知っている者なのか?」 「いいえ。今日初めて来た人みたい。下の駐車場でどうやって運ぶのか困っている様子だったところを、私が声をかけたから」 「左様か……」  高貴な雰囲気は残しつつも、いつもは明るく振舞っている徳子(トッコ)ちゃんだけど。どこか憂いを帯びた感じで俯いてしまう。 「祥恵よ……」  意を決したかのように。徳子(トッコ)ちゃんは一度頷いてから真っ直ぐに私を見て言う。 「あの壇ノ浦で。祥恵は兄上と会っていたよのぅ」  えっと…… 徳子(トッコ)ちゃんのお兄さんって何人かいるから。誰のことだろう。
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