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「さっき橘似と一緒に現れた、荷車を押したヤツだけど。なんか気になって……」
九郎が気になるって、もしかして……
「まさか、またどこかで会ったことがある。なんて言わないでしょうねぇ」
「んん…… そのまさかかも知れない。なんかこう…… どこか懐かしいような匂いがしたような気が」
懐かしさを感じるって…… 政子ちゃんの時みたいに、また九郎や私達が知ってる、あの時代の魂を宿した人が現れたって言うの?
あの酒屋の人が、私達が知っている誰かだと言うの?
「祥恵よ……」
私の近くで青白い靄のようなものが人の形になり、徳子ちゃんが現れる。
「どうしたの?徳子ちゃん」
「ええ。少し話をしても良いかのぅ」
徳子ちゃんはそう言って、社務所のほうに目をやる。
「わかった。じゃ、九郎。またね」
九郎に手を振り、私は徳子ちゃんを従えて社務所に向かう。
桜の樹の下に九郎がいることを、徳子ちゃんも知っているはずだから。
彼女が私をその場から離そうと合図をしたと言うことは、九郎のいない場所で、2人だけで話したいことがあるんだと思った。
社務所の壁に持っていた箒を立てかけて。誰も来ないはずの、社務所の裏側へと行く。
「さっき、神酒を持って来た酒屋の男。初めて見るようじゃが、祥恵の知っている者なのか?」
「いいえ。今日初めて来た人みたい。下の駐車場でどうやって運ぶのか困っている様子だったところを、私が声をかけたから」
「左様か……」
高貴な雰囲気は残しつつも、いつもは明るく振舞っている徳子ちゃんだけど。どこか憂いを帯びた感じで俯いてしまう。
「祥恵よ……」
意を決したかのように。徳子ちゃんは一度頷いてから真っ直ぐに私を見て言う。
「あの壇ノ浦で。祥恵は兄上と会っていたよのぅ」
えっと…… 徳子ちゃんのお兄さんって何人かいるから。誰のことだろう。
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