第四章 過去からの訪問者

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 彼女が住んでいた庵の名前を取って寂光院(じゃっこういん)とも呼ばれる、建礼門院徳子(とくこ)さま。  「とくし」「のりこ」と記している書物もあるようだけど、まわりの近しい人達はみんな「とくこ」と呼んでいたから、私も「トッコちゃん」と呼んでいる。  ご存知のとおり。彼女はあの、平清盛の娘。一番上の2人の兄とは違い、本妻の死後に後妻となった尼さまこと時子(ときこ)さまとの娘。  尼さまの弟君は、あの「平家にあらずんば人にあらず」の名言で有名な平時忠(ときただ)。その下の妹君は、暴君名高い後白河(ごしらかわ)法皇に入内(じゅだい)した建春門院(けんしゅんもんいん)こと滋子(しげこ)さま。  徳子(トッコ)ちゃんはその、滋子さまと後白河法皇との子、高倉(たかくら)天皇の元へと入内する。  なんか、この血の繋がり…… 飛ぶ鳥をも落とす勢いの平家を象徴してるわよね。そりゃあ徳子(トッコ)ちゃんの叔父さんも、そんな発言をするわいな。  やがて徳子(トッコ)ちゃんと高倉天皇との間に言仁くん── 安徳天皇が生まれる。  若くして帝の座を息子に譲って院政を始めた高倉上皇だけど。あっけなく病に倒れて御隠れあそばされてしまう。  それから徳子(トッコ)ちゃんと安徳天皇は平家の皆さんと行動を共にするわけだけど。  源氏との最終決戦。壇ノ浦で死期を悟った尼さまが、言仁くんを抱いて海に身を投じる──  ってのは、現代に伝わる嘘の史実で。壇ノ浦で亡くなったのは尼さまだけで、言仁くんは徳子(トッコ)ちゃんとともに京都の寂光院で静やかな暮らしを送る……  元はと言えばね。捻じ曲がった史実のせいで、徳子(トッコ)ちゃんと離れ離れになってしまって。ウチの水天宮に独りでいた言仁くんに、お母さんを探してあげる。って私が約束したことが発端なのよね。  まったく、神様も気まぐれよね。日本史なんかにまったく興味がなく、それどころかほとんど無知だった私に言仁くん達を視ることができる能力を授けるなんて。  でもきっと、そんな私だから無事に言仁くんを救い出して、こうして徳子(トッコ)ちゃんをここに連れて来ることができたのでしょうけど。
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