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でも本当の知盛さんは違った。
壇ノ浦での海賊の反乱に、咄嗟に機転を利かせた九郎。それは降参したフリをして、鎧や武具だけを海に放り投げて。その混乱を縫って陸に上がろうと言うもの。
知盛さんもすぐにその作戦に賛同してくれたけど。
主上── 言仁くん達が乗る船で、船に積んであった布や布団でダミーを作り、鎧や錨を括り付けて海に投げようとしたのだけど。
そう。言仁くんや徳子ちゃん、尼さま達が入水したように見せかけるために。
でも、なんと知盛さんは自分の鎧と一緒に、その船の錨を巻いて海に沈めてしまったのだと言う。
名将、知盛は死期を悟り、錨を持って自決した。という武勇伝が欲しかったのですって。
まさに阿呆な「碇知盛」を実践してしまった知盛さん──
もちろん、本物の知盛さんは言仁くん達が乗る船に残り、徳子ちゃんに生き残るように説得してくれたりした。
その後、私達は京都に戻るために。平家の皆さんは九州に向かうために進み、離れ離れになってしまったので。知盛さん達のその後の足取りを知らないのだけど。
こっちの世界に戻ってから。いろんな書物を読み漁っても、平家は壇ノ浦で滅んでしまった。という偽の史実しか記されていなくて。
その後平家がどうなったのか、いい加減な噂話にしか伝わっていない。
その知盛さんのことを話し始めるなんて、いったい徳子ちゃんはどうしてしまったのだろう。
「すまぬ、祥恵。あの酒屋の男の面影が、知盛の兄上に似ていたので、ちと気になっただけじゃ。
じゃが、判官どのや政子さまのこともある故、もしかしたら兄上もまた、この社の不思議な力に導かれて、姿を現したのかと思ってのう。
妾の戯言じゃ。変なことで呼び止めてしまって、すまぬことをしたな」
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