クリ~ックリスマス!

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クリ~ックリスマス!

 むか~し、むかし、世の中に、空前の『笠地蔵ブーム』が起こったときのことじゃった。 『笠地蔵』とは、日本の昔話で、清い心で過ごしておられた、おじいさんとおばあさんの、ぬくもりある物語。  地方によって、ストーリーに若干の違いはあるようじゃが、大筋はこうじゃ。  おじいさんは、欲のない純粋な気持ちから、雪をしのいでもらおうと、6~7体のお地蔵さんに、手持ちの笠と自分が(かぶ)っていた笠、そして、足りない1体には、自分の手拭いを被せたのじゃった。  すると、その夜、お地蔵さんたちはお礼に、たくさんの食べ物や小判等を届けて下さり、おじいさんとおばあさんは、いいお正月を迎えられたというお話じゃ。  ある街の人が、欲のない純粋なそのおじいさんと同じことをしたら、その夜、同じことが起こったと、SNSでつぶやいた。  すると、あっという間に、欲ボケな人間どもは、お地蔵さんたちに親切になったのじゃった!  笠を被せるに始まり、寝袋を着せる者、小屋を建てる者、床暖房を(しつら)える者、温泉を掘る者等々、エスカレートしていった。  すると、各地のお地蔵さんたちの返礼品もエスカレートし、ふるさと納税の返礼品競争のようなことが、全国各地で起こったのじゃった。  すっかり、ぬくぬくポカポカになった全国のお地蔵さんたちに、もう何も()(すべ)はなかろうと、わしは確認のために、近くのお地蔵さんにお参りをしたのじゃった。  すると、お地蔵さんたちの寒さ対策はバッチリじゃったが、お供えされていた栗たちは吹きっさらしで、とても寒そうじゃった。 「お地蔵さんたちばっかりぬくぬくとの~。栗たちが寒そうで、かわいそうじゃ~」  わしは、商店街で、10枚入り・税別¥500-の特売だったタオルで、栗たちを包んでやった。 「寒いじゃろうが、これで堪忍しておくれ」  わしは、雪深くなる中、家路を急いだ。  すると、その夜、家の玄関を、カチカチッ! と、ダブルクリックするような音がしたので、インターホン越しに、「どなたですか?」と、(たず)ねると、「本日タオルでお包み頂いた栗どもでございます」と、栗たちだった。  おそらく、返礼品を持って来てくれたのだろうと、玄関を開けた。 「おじいさん、今日はありがとうございました」 「いやいや、タオルだけじゃと寒かったろ。すまんの~」  わしは、控え目にそう言い、「つまらないものですが……」と、返礼品を受け取る気満々ながら、そんな気持ちをひた隠しにひた隠しに、やたらと、すっとぼけた顔で待っていると、 「実は、そうなんです……」  と、返礼品どころか、寒さで(こご)える栗たちが、ズラリと並んでおった。わしは、仕方なく、誠に、断腸の思いで、返礼品をあきらめ、 「ばあさんや」 「何ですか?」 「これも何かのご縁じゃ」 「そうですね~」 「今日はクリスマスだけに……、栗、住ます? ……なんつって♪」 「そうですね♪」 「ヤッターーーッ!」  栗たちは大喜び! 一緒に住むことになったのじゃ。  早速、今回代表で交渉にやって来た栗たちは、それぞれスマホで、一族郎党に連絡を取ったり、SNSで拡散したりした。すると、わしらの家には、ひっきりなしに栗たちがやって来るようになった。  栗たちは、「このご恩は、一生忘れません!」と、言葉通りに、それぞれ自分自身の熟れ頃・食べ頃をわきまえ、時期が来れば、自ら原料となり、勝手に商品に化けてくれた。  ありがたいことに、評判が評判を呼び、栗ごはんや栗きんとん、栗ようかんやモンブラン等々、あらゆる栗加工食品が、毎日、飛ぶように売れた。  仕入れ代金0円、加工の手間0時間。販売の手間だけで、つまり、丸儲けじゃ!  そんな日々を過ごしておったんじゃが、どうやら、そろそろ、わしらにも寿命が来たようじゃ。  栗たちのお陰で、わしもばあさんも、死ぬまで、穏やかな暮らしをさせてもらえた。  今から、あの世へ向かわせてもろうて、これまで、わしらの暮らしを支え、先に旅立って()ってくれた栗たちに、面と向かってちゃんと言えなかった言葉、「ありがとう」を、栗だけに、"ゆっくり(栗)"、お礼を言うて回ろうと思~とるのじゃ♪  合掌♪
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