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クラスメイトの魔女
「なあ、本当に魔女なのか」
「うん、本当」
放課後の図書室、リクに聞かれ、ヨリが答える。
「なんで、魔女なの?」
机に座ったリクが言う。ちょっと行儀が悪い。
「わかんない」
読んでいる本から目をはなすことなく、ヨリが言った。放課後の図書室にはヨリとリクしかいない。授業が終わって下校する生徒はとっくに下校してしまった。部活をしている生徒の声が遠くで聞こえる。
「なんで、ほかの人に言っちゃいけないの?」
「それもわかんない。けど、ママから言われた」
「ヨリの母さんも魔女なの?」
図書室の机に寝そべってリクが聞いてくる。かなり行儀が悪い。
「そう。ママも魔女」
「父さんも魔女?」
「そんなわけないじゃない。パパは普通のパパに決まってるでしょ」
「……オレにかけた呪い。解いてくれよ」
「いやよ。解いたらすぐしゃべっちゃうでしょ」
ヨリが本のページをめくる。紙の擦れる音が図書室にひびいた。
「だってすごいことじゃんか。魔女だぜ、魔女」
リクが机から降りて、ぐるぐると歩く。
「みんなに言ったら、きっと大騒ぎになる。クラスのヒーローになれるぜ」
「だから言えないんじゃない」
「なんで?」
「魔女は秘密なの。目立っちゃいけないの」
「だから、クラスでは無口なの?」
リクがヨリのとなりに座った。リクに魔女だってことがばれてから、放課後つきまとわれるようになった。
「それは関係ない。もとから無口なだけ」
「いまはこんなにしゃべってるのに?」
「それは――」ヨリが読んでいた本から目線を外した。「あなたがいるから、しかたなく。もしあなたが望むなら、しゃべれなくなる魔法をかけてあげてもいいわよ」
そう言ってヨリはリクを見る。
「ううん。やめてやめて、これ以上オレに魔法をかけないで」
リクが大げさに首を振る。
他愛もない話をしている内に、時間が過ぎていく。
「リク、部活は?」
「今日はないよ。知ってるだろ」
「うん、知ってる」
リクはサッカー部である。サッカー部といっても子どものお遊びみたいな部活なので、部活があるのは週に二日だ。それ以外の日はヨリのいる図書室に来ることが多い。
「ヨリは部活なにやってんの?」
「知らないの?」
「うん、知らない。だから教えて」
リクが知らないと言えば、本当に知らないのだろう。リクは、あまり細かいところまで興味を持つようなタイプではない。
「科学部よ」
「魔女だから?」
「ちがう」
ヨリはリクを軽くにらみつけた。
「ごめん」
リクが申し訳なさそうに言う。悪気はなかったのだろう。ヨリはリクのおもしろくもないジョークを許して、読書に戻った。
「いつも図書室にいるけど、なんで?」
「本を読むのが好きだから」
「ふーん、そんなにおもしろいかな」
リクが立ち上がって、本棚をあさりに行った。品定めするように本棚を眺めている。しかし、いかんせん興味がないので、すぐにあきてしまう。リクの足音が止まる。
「ねえ、おもしろい本ってどれ?」
「知らない」
「魔法でわからないの?」
魔法のつもりかリクが指をくるくると回す。
「なんでもできるわけじゃないの。できることしかできないの」
「魔法なのに?」
「魔法だからよ」
「ふーん」
なにに納得したのかわからないが、リクはふたたび本棚の前をぶらぶら歩き始めた。
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