勇者と魔王

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(ここは、さっきと同じ場所か?)  二度目の時渡り、勇者は村の中心部に立っていた。魔法はまだかかっているので、周囲からは認識されていないようだ。  また、周囲の人々が騒いでいるようなので、耳を傾けることにする。 「聞いたかい、あの子のことを」 「ああ、聞いたさ。軍から直々に指名があったんだって」 「そうなんだ。直接、魔術師になってくれと、頼まれたらしい」 「名誉なことだ。この村からそんな人材が出るなんてな」  どうやら、魔王が軍に指名された時の話らしい。とりあえず、魔王の家に向かおう。  歩いていくと魔王の民家の近くに着いた。再び、魔法を駆使し、家の内部を覗いてみた。  そこでは、成長した魔王と、その父親と母親が話していた。 「父さん、母さん、行ってきます」 「ああ、頑張ってくるんだぞ」 「辛くなったら、いつでも帰ってきていいのよ」  魔王を抱きしめる両親の姿は、優しさに溢れているように勇者は感じた。  そして、魔王は確かな決意に身を固め、その瞳には、正義感や使命感を感じ取れた。 (これが、魔王の瞳か?)  勇者の疑問は止まらなかった。今、目に映るその男が恐怖の魔王になるとは思えなかった。  その様子から、両親の愛を受け、育ってきたのだろう。 (なぜ、魔王になってしまったのだろう?)  魔王の魔力は感じ取れていた。その力は強大であり、今の勇者が倒せるかどうか怪しいほどであった。  つまり、どの道ここで、魔王と戦うことは得策でないと思った。  ならば、成り行きを見てみるのもいいのではないかと、勇者は思った。 「向こうに行っても、手紙を出すよ。毎日は無理かもしれないけど」 「気にしなくてもいい、俺達はいつでも待っている」 「そうよ。あなたの帰る場所はここなんだから」  魔王は両親とのその会話を最後に、外に出た。村を出て、軍に入るのだろう。  魔王が外を歩いていると、周囲の人々が口々に声をかける。 「頑張れよー!」 「お前はこの村の誇りだー!」 「軍で一番になってこーい!」  魔王はその言葉に手を振りながら、応えていた。  その姿はまるで、英雄であるかのようだった。 (これが、魔王の姿か……)  それを見届けた勇者は、次の時渡りを決意するのであった。
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