勇者と魔王

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 勇者が目を開けると、そこには見知らぬ光景が広がっていた。周りは草木に囲まれていた。ここがどこなのか、時渡りが成功したのかわからなかった。  周囲を見渡してみると、どうやら街道があるようだ。街道に出てみると、看板を見つけた。 (時渡りが成功したしてないにかかわらず、ここが魔王の生まれた村の近くであることは間違いないようだ)  しばらく、歩いてみると村が見えてきた。念のため、自信に魔法をかけ、周囲の人々から、認識されないようにした。  村の中に入ってみると、人々が何やら騒いでいるようだ。 「聞いたかい、とんでもない子が生まれたって」 「ああ、聞いた聞いた。すごい魔力を秘めているんだろう」 「ああ、きっと、神の子だ。今から将来が楽しみだよ」  この話によって、勇者は時渡りが成功したのでは、と予測した。 (魔王の生まれた時、なのだろうか。話に聞いたのと同じような反応だ)  歩いてみると、とある民家の周りに人だかりができていた。  そして、その民家からは大きな魔力を感じ取った。  勇者は魔法で、視力と聴力を強化し、家の内部の状況を確認することにした。  家の中では、一人の女性が赤子を抱え、一人の男性とともに優しく笑っていた。 「ふふ、あなたに似た強い男の子になってくれるかしら」 「君に似て、優しい子になるかもしらない」  端から見れば、どこにでもいる普通の家庭に思えた。しかし、その赤子からは尋常じゃない魔力を感じた。 (あれが、魔王の魔力)  勇者にとって、魔王を見るのはこれが初めてであった。その魔力は、自身と同等以上に感じられ、それが自分の時代ではさらに磨かれていると考えると、恐怖さえ覚えた。 (だが、まだ赤子だ)  手にかけるのは容易いだろう。 (赤子……か)  しかし、勇者は躊躇った。魔王といっても、赤子に手を出すなど気が引けた。それに、あの家族の光景は、勇者も知っていることだった。 (無理だ……)  そう思ったが、魔王を抹殺しなければ、現代に帰ることはできない。  この誰からも祝福されている赤子が、将来、誰からも恐れられる魔王になる。そうわかっていても、何もする気になれなかった。 (もう少し、後の時代なら……)  それは逃避であった。時代が経てば経つほど魔王は強くなっていくというのに。  勇者は逃げるように時渡りし、別の時代へ旅立つのであった。
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