勇者と魔王

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(さっきとは違う場所だな)  勇者が目を開けると、そこは先ほどまでとは、違う場所であった。近くに城が見えたことから、ここは城下町であると予測できた。 (魔王はどこだ……)  勇者は感覚を研ぎ澄まさせ、周囲を探る。大きな魔力が感じ取れた。  その方向に歩いて行くと、やはり、魔王が見つかった。  先ほどからさらに成長していたが、邪悪な気配はまるで感じられなかった。  魔王は周囲を、先輩と思われる兵や魔術師に囲まれていた。宴会の最中のようで、飲み食いしながら、騒いでいた。 「すげえな、お前。軍が束になっても敵わなかった魔物を封じ込めたんだから」 「西の山の巨竜、北の海の大魚、東の砂漠の魔人、どれも魔物達を率いていた。トップクラスの連中だ」 「あれを一対一で倒して、封印しちまうんだから、大した奴だぜ」 「これで、魔物もしばらくは大人しくなるだろう。隊長を失ったら、身動きがとり辛くなるだろうしな」  周囲からの称賛にやや照れながら、魔王は笑っていた。 「そ、そんなに褒めないで下さい。恥ずかしいじゃないですか」 「何言ってんだ! 今日はお前が主役だぜ!」 「そうそう、遠慮せず、褒められておけ!」  宴会はしばらく続き、やがて終わっていった。  魔王も家に帰るらしく、歩き始めた。勇者も後をつけることにする。  魔王は一軒家に住んでいるらしい。裕福な暮らしができているのか、国から与えられたのかはわからないが、暮らしは困っていないようだ。  魔王が家の中に入ってしまったため、三度、魔法を駆使し、家の中を覗く。  広い家ではなかったため、すぐに魔王は見つかった。何やら、周囲を警戒しているようだ。  自分が見つかったのかと思ったが、どうやら違うらしい。  魔王は体から、魔力を放ち、周囲を攻撃していた。その攻撃により、家の中に潜んでいた人間が吹き飛んだ。 「いい精度の身隠しだな」 「ぐ……馬鹿な、今まで俺の身隠しを見破った者など」 「俺レベルでも、ここまで近づかなければわからなかった。普通なら気づかないだろう」  倒れた男を、魔王は冷たい瞳で見下ろした。 「暗殺者か、誰の差し金だ?」 「……言うはずなかろう」  魔王は手を広げ、男に向けた。 「お前が何も言わなければ、中身を覗くまでだ。喋らないことに意味などない」  魔王の手から魔力が放たれた。暗殺者は抗おうとしたようだが、魔王の力に身動きが、取れなくなっていた。 「しかたない、どの道……俺に助かる道はない」 「な、に……」  しかし、圧倒的優位にあった魔王の顔は、驚きに変わった。暗殺者がこと切れていた。口の中に毒物を仕組んでいたらしい。 「くそ!」  暗殺者が倒れたのを見て、魔王はその場で、地団駄を踏んだ。 (ここからか……ここから魔王が変わったのか……?)  勇者は、目を瞑る。この時期の魔王に、自分は敵わないかもしれない。何より、どうして魔王が魔王になったのか知る必要がある。 そう思った勇者は、四度目の時渡りを試みた。
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