勇者と魔王

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(ここは、最初の村か……)  目を開けた勇者は、ここが魔王が生まれた村であることに気がついた。 (何てことだ……)  しかし、最初とはまったく違うことが一目見てわかった。  周囲は無数の死体が転がっており、家屋は燃えていた。男も女も子供も老人も、そこに区別はなく、凄惨な光景が広がっていたのだ。  魔王の家へ向かうことにする。そこには、二つの死体の隣で泣いている魔王がいた。  それだけではない。魔王の目の前には数人の生きた村人がいた。 「やっぱり、お前は悪魔だ!」 「そうだ!俺達を苦しめやがって!」  村人達は、魔王に対して罵詈雑言を浴びせていた。いくつか前の時渡りの時は、あれほど、魔王を称賛していたのに。 「そいつらは、死んで当然だ!お前みたいな悪魔を作ったんだか……」 「黙れ」  村人の言葉は、魔王の一撃によって、遮られた。  それを見た勇者は、確信した。魔王が魔王になった原因が何なのか。 「これが、人の業だ」  その光景を見ていた勇者に、後ろから声がかけられた。 「魔王……なの?」 「そうだ」  そこには、先程まで見ていた男より、さらに年老いた男が立っていた。 「時渡り……」 「人間どもは馬鹿だとは思わないか。お前にできることを、俺がやっていないとでも思ったか」  考えてみれば自分ができることなら、魔王にもできるだろうと、勇者は思った。 「結論から言おう。過去を変えても現代は、変わらん。俺がすでに試したことだ」 「何?」 「何度も父と母を助けたが、俺の親が蘇ることはなかった」  魔王の言っていることは、事実であろうと勇者は思った。試さない理由が、魔王にはまったくなかった。 「勇者よ、俺は国に裏切られた、虐げられたのは俺だ。俺に何の罪がある?何故、父と母が、殺されなければならなかった!」 「……」  魔王の言葉に、勇者は言い返せなかった。 「悲しみと絶望の中、俺は復讐を誓った。人に、国に、世界に!」 「確かに、世界のやり方は気に入らない!だが、罪のない人々を苦しめることは許されない!」 「罪?何もしない者達は、それだけで罪だ!俺は人々を魔物から救った英雄だった!だが、誰も俺を救おうとしなかった!」  魔王は声を荒げ、叫んでいた。 「お前もわかるはずだ。強すぎる力は、人から恐れられる。俺が先に生まれていなければ、お前が俺だったのだ!」 「く……!」  勇者は理解していた。今現在でさえ、自分の父と母は国によって監視されている。  自分が魔王と同じ立場ならば、どうなっていたか簡単に想像できる。 「わかっているさ。お前は俺、俺はお前だ」 「何が言いたいんだ!」 「俺とともに来い!ともに世界を支配しようではないか!」 「何だと」  魔王は勇者に手を伸ばした。  勇者は、その手をとりたいと思ってしまった。その気持ちを、理解できてしまった。  しかし、そうすれば父と母の命は危うい。勇者は、その手をとることはできなかった。
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