沈黙

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 そうして言えない言葉が増えていって、私とユウイチの距離はますます離れていった。ユウイチが夜遅くに帰ってくることも増えたし、前は手に取るほど分かったユウイチの気持ちが、分からなくなった。  その証拠に、私は今、誰もいないリビングで、ユウイチが帰ってくるのを待っている。一人には広すぎる、3L D Kの部屋。  彼は今、何をしているのか。彼は今、誰のことを思っているのか。……私のことは、もう愛していないのか。  返事が怖くて聞けなかった言葉達が、一人になった途端、脳内を駆け巡る。それらは私の中の不安や焦燥を大きくしていった。  しまいには、「私は彼との幸せを願っているだけなのに、どうしてこんな思いをしなければならないの」と自分勝手な思考に至ってしまう。私を傷つける、彼を恨んでしまう。悪いのは、愛される魅力がない、自分だというのに。  私は一人に男に振り回される自分に、嫌気が差していた。一人の男の言動で、こんなにも自分の心が揺さぶられるなんて、思ってもいなかった。  ああ、私は恋をしているんだな、なんて、出会った当初の気持ちを思い出す。きっと、これまで過ごしてきたような当たり前の日々は、二度と戻ってこないんだろうと、静かな部屋で悟った。
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