沈黙

　ある日、私は見てしまった。恋人であるユウイチが、綺麗な女の人と腕を組んで歩いているのを。そしてその時、私は他人事のように、その様子を遠目から見ていた。

　心のどこかで、分かっていたのかもしれない。最近ユウイチが私を見てくれないのも、二人の間に流れる沈黙が気まずくなっているのも、私とユウイチの気持ちが違うものになったからなのだ、と。

　それでも、私は気付かないふりをしていた。ユウイチのことが好きだったし、彼が付き合って一周年の記念日に言ってくれた「これからも、ずっと好きだよ」という言葉を信じていたから。その言葉が今は嘘になってしまったとしても、彼の気持ちが籠もったその一言に、縋りたかった。

　だから私は、何も聞かなかった。何も知らない私を演じていた。だって、二人の関係が終わるのが怖かったから。何かを言ってすべてが終わるくらいなら、いっそのこと沈黙を貫いた方が良いと思ったから。