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第1話 頼れるあいつは就寝中①
序
冷たい血の海に漬かりながら、私は黒く塗りつぶされた人々の動きを眺めていた。
――救急車だ、早く呼ばないと!
――ごめんなさい、こんな馬鹿な子のために。……でももう遅いかもしれない。
私は遠くに転がったヘルメットと、横倒しになって血のように油を流している愛車を見ながら、私の最期を看取ってくれるのはこいつらだけかとぼんやり思った。
――大丈夫ですか?今、救急車がきますから、気をしっかり持って!
誰かが懸命に私を励ましてくれている。有り難いけど、もう駄目な気がする。あれだけのスピードでぶつかって、空中を派手に舞って、アスファルトに叩きつけられたんだもの。
……ああ、いくらレースに出られないからって、雨の日に飛ばすんじゃなかった。これは神様がもう引退しろって言ってるんだわ。でも人生からもなんて、ちょっとひどすぎる。
次第に近づいてくるサイレンに耳を澄ませながら、私は意識が遠のいてゆくのを感じた。
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