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第2話 謎めくあいつは雨の中①
「わあ、雨だ」
雑居ビルの通用口から狭い裏路地に顔を出した途端、雷郷は叫んだ。
「これじゃ仕事にならないな。……君、ちょっと先に出てくれる?」
渋い表情の雷郷に強いられ、私は仕方なく傘を差して路地に出た。路地と言っても左右は鉄柵で塞がれており、その向こうに見える通りには出られないことがわかった。
「ここですか、その……遺体が発見された場所というのは」
「そ。袋小路の奥、ゴミ捨て場の前で首を絞められて殺されてたってさ。怖いよね」
雷郷はビルから一向に出ようとせず、屋内から声だけで答えた。なんという横着な刑事だろう。私は仕方なく、遺体があったというゴミ捨て場の前まで移動した。
「どう?何か聞こえる?」
「……なにがですか」
「もうっ、被害者の「声」だよ。なんだったら姿でもいいけどさ。背筋がぞっとするような、無念のメッセージとか、聞こえないかなあ」
雷郷の間延びした口調と、怪談めいた内容があまりにミスマッチで私は思わず苦笑した。
「そんな捜査がありますか、先輩。遺留品とか、犯行の痕跡の間違いでしょう」
「馬鹿だなあ、そんな物、とっくに消えてるに決まってるじゃないか。どれだけ時間が経ってると思ってるんだい」
これにはさすがの私も開いた口が塞がらなかった。じゃあ一体、何のためにここを訪れたのだ。まさか肝試しというわけでもあるまい。
「それじゃあ何をすればいいんです?そんなことを言うんだったら先輩、ここに来て捜査のお手本を見せてくださいよ」
溜まりかねて私が抗議すると、ドアの隙間から傘を携えた渋い表情の雷郷が現れた。
「だからさあ「声」だよ「声」。……君。本当に姉貴から推薦されて来たの?」
雷郷はピンクの傘を差すと、渋々と言った体でゴミ捨て場の前にやってきた。
「こうして立ってるだけでもさ、死者の無念って奴が伝わってくるじゃん、身体を締め付けるような、胸が悪くなるような……ああ、ぐ、ぐるぢいい」
そう言うと、それまで木偶の坊みたいに突っ立っていた雷郷が、いきなり喉に手をあてて苦しみだした。霊感?それともお芝居?対応に窮した私はそのまま成り行きを見守った。
「……うっ」
苦しそうにもがいていた雷郷が突然、短く呻くとその場に崩れた。
「雷郷さん!」
私は傘を手放すと、雷郷の傍らにしゃがみこんだ。どうしよう、ええと、呼吸は……
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