12人が本棚に入れています
本棚に追加
第2話 謎めくあいつは雨の中②
私はまず雷郷の口元に耳を近づけ、胸に手をあてた。どうやら息はしているようだ。
「雷郷さんっ、聞こえますか、雷郷さん!しっかりして下さい」
私が耳元で呼びかけると、雷郷の口が開き、何かを小声で呟き始めた。
「私を見殺しにして逃げるつもりね……。あなたに気を許した私が馬鹿だった……」
意味不明の言葉を呟くと、雷郷は再び沈黙した。もう一度、呼びかけようと私が口を開けかけたその時だった。雷郷の頭のあたりから黒い煙のような物がふわりと立ち上り、見覚えのある形になった。
――雷郷さん……嘘でしょ、そんな不吉な。
私は嫌な予感を振り払うように頭を振ると、できる限りの大声で雷郷に呼びかけた。
「雷郷さんっ、早く起きないとあの世からお迎えがきちゃいますよっ」
すると必死の呼びかけが功を奏したのか、雷郷が瞼を億劫そうに動かすのが見えた。
「ん?……呼んだ?」
「よかった、生きてたんですね。私てっきり……」
「てっきり何だい」
「いえ、あの……雷郷さんの身体から、ちょっと不吉な物が現れたように見えたもので」
「不吉なもの?」
私は自分が見た物を正直に言うかどうか一瞬、躊躇した。
「なんだい、言ってごらんよ。驚かないからさ」
「ええと、その、がい……骸骨です」
「骸骨?」
しまったと私は思った。いくら浮世離れした雷郷でも、さすがにこれは呆れるだろう。
「……よかった、ちゃんと見えたじゃん。やっぱり姉貴が見込んだだけのことはあるよ」
ずぶ濡れのままはしゃいでいる雷郷を見て、私は狐につままれたような気分になった。
「あの……どういうことです?」
「だからさ、見えたんだよ「あいつ」が。今度会ったらちゃんと「見えました」って言うんだぜ。ああ見えてデリケートな奴だからさ」
雷郷はまたしても意味不明な言葉を口にすると、つい先ほどまで苦しんでいたのが嘘のようにけろりとした顔で立ちあがった。
「さあ、これでとりあえずの目的は果たしたな。いったん引きあげようぜ」
「ちょっと、雷郷さん。これのどこが捜査なんですか」
口を尖らせて抗議する私を無視するかのように、雷郷は鼻歌に合わせて傘を回し始めた。
最初のコメントを投稿しよう!