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第4話 頼みのあいつは訓練中②
「あいつら確か、前の事件で捕まえた犯罪グループの一味だな。僕らがボスを捕まえて解散させられたんで逆恨みしてやがる」
「そんな、何呑気な事言ってるんですか。本当なら援軍を呼ばないと」
短いやり取りの間に、二人組との距離はたちまち縮まっていった。気が付くと私たちは二人組に行く手を阻まれる形で、歩道に立ち尽くしていた。
「すみません、ちょっとそこを避けてもらえませんか」
雷郷が間延びした口調で言うと、男性のうちの一人が「雷郷だな。いいところで会った」と言った。
「あの、どなたか存じませんが私たち、仕事中なんです」
私は勇気を振り絞って男性に言った。何とか隙を見つけて援軍を呼ばなければ。
「その仕事のせいで、俺たちは大変な目を見たんだよ……なあ」
男性が言うと、いくらか上背のある片割れが「まったくだ」と低い声で言った。
「せっかく捕まえたんだ、命までは取らないにしても、多少は痛い目に遭ってもらわないとなあ。……ん?」
男性はそう言うと、いきなり光る物を取りだした。私は焦った。護身術は一通り身に着けているつもりだが、実戦は初めてだ。ええと、まず袖をつかんで……
私が頭の中で習った手順をそらんじていた、その時だった。いきなりどさっという重い音がして、すぐ隣にいた雷郷の姿が消えた。
「ちょ、ちょっと雷郷さん、どうしたの?」
「援軍を呼べと言ったのは君じゃないか。……じゃ、後は頼んだよ。おやすみ」
意味不明の言葉を口にすると、雷郷は驚いたことに歩道に倒れこんだまま寝息を立て始めた。私は目の前が暗くなるのを意識した。これで万事休すだ、援軍どころか救急車だわ。
「こいつ、気絶しやがった。俺たちを熊かなんかと間違えてやがる。おい……起きろっ」
屈みこんだ男性が雷郷の胸ぐらを掴んで揺さぶり、私が天を仰ぎかけた、その時だった。
「……乱暴な起こし方をしおって。礼儀という物を知らん奴だ」
雷郷が地の底から響いてくるような声で言うと、むくりと身体を起こした。
「なんだと?ふざけてるのか」
男性がそう言った瞬間、雷郷の手が男性の袖を掴み、体を捩じりながら立ち上がった。
「……うわっ」
雷郷が男性の懐にすっぽりと収まった次の瞬間、男性の身体は発条で弾かれたように空中を舞っていた。
「ぎゃあっ」
歩道に背中から叩きつけられた男性は一言呻くと、その場でぐったりと伸びた。
「……ふん、トレーニングをしてない割には、まあまあだな。それにしても固い身体だ」
いつもとは異なる口調に、思わず雷郷の方を見た私はあっと声を上げそうになった。雷郷の口元が残忍ともいえる角度で吊り上がり、両目が不気味に赤く輝いていたのだ。
「ら、雷郷さん……?」
「何を言っとる。見ればわかるだろう。雷郷は今ごろ、夢の世界だ」
「雷郷ではない誰か」はそう言うと「雷郷」の顔のまま、禍々しい両目を私の方に向けた。
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