Christmas song

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「夏緒先輩?」  ぼくがホッカイロを手にした時でした。聞き覚えのある声……いや、ぼくをそう呼ぶ人はこの世にひとりしかおらず、ぼくの手からホッカイロがポトリと床に落ちました。振り返るのが恐ろしくて、ぼくは落ちたホッカイロをことさらゆっくり拾いあげ、それを棚に戻しました。 「夏緒先輩でしょ?」  振り向くまでの時間が永遠のように思えました。視線を限りなく下に向け、ぼくの目に最初に飛び込んできたのは、ブーツの爪先でした。  それから濃紺のデニムに、黒のコートの裾、オフホワイトのニット、赤紺ストライプのマフラー、それから―― 「……ラギ君」  数年ぶりに会うラギ君は、やっぱりキラキラしていて、ぼくは目が潰れそうでした。ぼやぼやと視界がかすみ、メガネの縁に水が溜まりました。 「なんで泣くの……」 「っ、ごめ、ん……びっ、くり、しちゃって」  こんなことってあるんでしょうか。神様は、まだイタズラをやめていないのでしょうか。ぼくは、こうなってもまだ、この再会を『運命』とは呼べないのです。 「なにか買うの?」 「え……あ、ううん。もう……いい」 「じゃあ、駅まで一緒に」 「……うん。そうだね」  
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