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雪はやんでいました。地面にうっすらと積もった雪を踏みながら、ぼくとラギ君は駅へと向かって歩きだしました。
「夏緒先輩、この近くで働いてるの?」
「あー、うん。出版社でね、編集をやってる」
「そうなんだ? さっきのコンビニの近くにスポーツジム出来たでしょ? 俺、そこでインストラクターやってるんだ」
どうりで今までは会わなかったわけです。ラギ君の言うスポーツジムが出来たのは、つい一週間ほど前のことですし、ぼくがいつも通るのはスポーツジムとは反対にある通りですから。
「先輩は……明日、予定ある?」
「明日? 特にはないけど……」
ぼくにクリスマスなんて『なんでもない普通の日』ですが、ラギ君はそうもいかないはずです。だってラギ君に恋人がいないなんて有り得ないし、もう結婚していてもおかしくない年齢ですし、だからラギ君がぼくの予定を聞いてきたことに深い意味はないはずでした。
「じゃあ、食事でも」
「えっ?」
「えっ? って……そんな嫌?」
「え、あ……違う。そうじゃなくて、だって……クリスマスだよ?」
「知ってる」
ぼくは返事に詰まってしまいました。ずっとずっと好きだったラギ君と再会して、食事に誘われて嬉しくないはずがありません。もしかしたら……という想いも、恥ずかしながら捨てきれません。
だけど。
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