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「ラギ君。今日は会えて嬉しかったけど……もう……会わないでおこうね」
ぐるぐると時が巻き戻っていくようでした。
(皇君て彼女いるのかなぁ?)
そんな呟きを、高校の時も、大学生になってラギ君と付き合っている時も、ぼくは幾度も耳にしました。
(ラギ君、ぼくたちが付き合っていることは、内緒にしておこうね)
男同士ですから、基本的におおっぴらに出来るものではありませんでしたが、ぼくはラギ君にそう念を押しました。
(皇君、どうやら好きな人がいるらしいよ)
誰かが発した言葉は、尾ひれはひれを付けて広まり、あの皇勇神が好きな相手だからとんでもない美人に違いないと、まず『性別』でもってぼくは除外されました。いえ、ぼくが女性であっても除外されていたと思います。だけど、ぼくはショックだったのです。ラギ君の好きな人が『当たり前』に異性であると思われることが、それが『普通』なのだと現実を突きつけられたことが、そして、そんなことにショックを受けている自分がなによりショックでした。
(ラギ君、大学ではなるべく知らない人のフリをしようね)
(ラギ君、外で手をつないだりするのはやめようね)
ラギ君……ラギ君……ラギ君……ぼくは何度、君を体のいい言葉で傷付けたのでしょう。ぼくが恐れをなして、周囲の目に怯え、君を遠ざける言葉を紡ぐ度、君は傷付いた目でぼくを見ました。ぼくは、ただ怖かったのです。君の隣にいるのがぼくだと知れたら、一体なにを言われるのだろうと。
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