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好きな人を好きと思う時、私は暖かいココアを飲んだ気分になる。
胸のあたりがポカポカしてきて、熱を帯びた何かが体の中で沸騰して、じっとしていられなくなる。いつもそう。昔から、ずっと。
山々が少しずつ色付け始めるような、ココアを飲むにはちょっぴり早い季節。
私は気づかれないよう、そっと外の世界に息を吐き出してみた。
冬服になったばかりの気温では息が白くなることはないけれど、思っていた通り暖かい。口を閉じると、どことなく甘さが広がったような気がした。
放課後、私の目に映っているのは静かな教室の端っこの席に座る、猫背の男の子。耳にかかった少し長めの黒髪を触りながら、文庫本のページを丁寧にめくる姿。
窓から差す橙色の夕日に照らされた横顔は、小さく笑ったかと思ったら、唇を噛みしめて悲しそうになったりもする。きっと彼は今、物語の中にいる。
オレンジ色に染まる彼の背中に、そっと自分の手を重ねてみたくなる。ワイシャツ越しに伝わる彼の熱は、ココアを飲んだばかりの私と、どちらが暖かいのだろう。
自分の頬に両手を当ててみる。暖かい。けれどわからない。触れたことのない、触れることもできない彼の暖かさを、私はまだ知らない。
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