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「エクアドル!」  小学四年生のときに初めてそう呼ばれて面食らったことをフレディー・モラスは思い出した。  何と答えたら正解なのかもわからず、ただその場に立ち尽くす。砂漠にぽつんと生えたヤシの木みたいに、水を探すために懸命に根っ子を伸ばしてみるが満たされるものは何もない。そもそも砂漠にヤシの木って生えてたっけ。  エクアドルと呼ばれてそれに間違いはないから非常に困る。フレディーの父親はオーストリア人で、母親はエクアドル人だった。体の線が細く、髪は闇のように黒くて少し癖っ毛、肌の色は褐色、目の色はヘーゼル、顔の彫りが深くて眉毛も濃い。  だいたいヘーゼルって何だ?ナッツしか思い浮かばない。やたらと明るいエクアドル人の母親が、瞳がヘーゼル色であることをいつも誉めてくれるが、フレディーはというと、普通に黒か、茶色の瞳に生まれたかったとかねてから思っていた。
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