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1.エクアドルの覚醒
高校一年生、期待に胸膨らませていた一年間が、何事もなく急ぎ足で去っていく。冬休みも終わり、あとは暖かくなるのを待つのみ。吐く息が白いこの季節はどうも苦手だった。
夜に考え事をしながら、窓ガラスに手足の吸盤でピッタリと張りつくヤモリの姿を見つめる。体をくねらせペロペロ舌を出しながら虫、すなわち食料を探していた。冬眠せずに虫を追いかけ続ける根性に脱帽する。
自分もこのままではいけない。高校一年生最後の思い出に、彼氏とはっきり決着をつけてやる。束縛の激しい彼氏を振ってやるんだ!昨夜はあんなに息巻いていたものの、翌日の昼すぎ、いざ電車に乗るとやる気は削がれ倦怠感しか残っていなかった。
別れを切り出す労力がない。どうせすぐ丸め込まれてしまう。好きな人、いや、好きだった人には強く出れない。周りの人の迷惑になりそうな大きなため息をついたそのときだった。懐かしいような、だけどある意味もう思い出したくなかったような歪んだ響きが耳に届く。
「エクアドル?」
眉をひそめながらゆっくり顔を上げると、そこに立っていたのは小学生のころよりずいぶん男らしくなった瀬尾瞬平だった。
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