珈琲物語

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珈琲物語

おやじと話をしてから間もなく、 おやじの付き人の車が迎えに来た。 「おはようございます、勇次師匠」 「朝早くにすまなんだな。 母さん、行ってくるわ。 拓哉、何をボサッとしとるねん。 早よ、来んかい!」 「わかったよ」 オレは、おやじの付き人の車に乗り、 おやじと一緒に自分の所属事務所に行った。 事務所では、朝から抗議の電話が 鳴りっぱなしだった。 事務所では、オレの付き人が おやじに話をしていた。 「師匠、朝から抗議の電話が 鳴りぱなっしで困っていますんや。 拓哉にタイムトラベルを 辞めさせるなってリスナーからの 電話が殺到しているんですよ。 次長は、拓哉は学校停学だけやし、 今後の仕事は師匠の監督の下で仕事を させるようにということなんで 今回は、おとがめなしで いかがでしょうか?」 「わかりました。 三上はん、今の話を聞きましたか?」 オレは、びっくりした。 事務所の会議室に寛さんがいたからだ。 「寛さん、どうしてここに?」 「夕べ、ワシがこっちに 来てくれるように頼んだんや。 三上はん、ワシは仕事がありますさかい 後のことはよろしゅう頼みます」 「わかりました。拓哉、こっちに来い!」 オレは、キツネに摘まれた気分だった。 オレは、寛さんと一緒に事務所を出ると 寛さんの車に乗った。 そして、寛さんが お気に入りにしている喫茶店に着いた。 「事務所で説教するよりはマシだろう」 「でもオレ、高校生だから校則違反ですよ」 「大人がいれば問題はない。行くぞ」 オレは、渋々寛さんと喫茶店に入った。 オレ、考えたら停学中だぜ。 ヤバいんじゃないかな? そんな不安が頭をよぎった。 寛さんと入った喫茶店は オシャレな感じの店で コーヒーのいい香りがしていた。 「どうだ?隠れ家には、 ちょうどいい場所だろ? タイムトラベルや ドリームランドの舞台で来る時には、 必ずここに立ち寄るんだ。 それにここは、瑠璃子の実家だからな」 「ここ、瑠璃子さんの実家なんですか?」 「そうだ。おいっ、瑠璃子。 奥の部屋に、コーヒー持ってきてくれ」 「いつものブレンドで、よかったわよね。 拓哉くんは?」 「同じのでいいよ。頼んだぜ」 オレは、寛さんと一緒に奥の部屋に入った。 「説教する前に、まずは 話を聞いたほうがいいと思ってな。 オレは、おまえがケンカをするくらいだから、 裕美が絡んでいるんだろうと思っている。 ここで思いっ切り話をしてくれないか、拓哉」 「寛さん、今まで黙っていましたが、 オレはひろみと付き合っています。 彼女は、オレの初恋の人でした。 タイムトラベルで初めて彼女に会ってから、 恋をしてしまったオレは、 思いきって彼女に告白しました。 彼女もオレのことを好きでいてくれて、 オレたちは付き合うようになりました。 オレがケンカをしたのは、 学校の一級上の不良グループでした。 ヤツらは、ドリームランドの 追っかけ本を使って、 彼女にストーカー行為をしていました。 無言電話や稽古場での待ち伏せをし、 挙句の果てにヤツらは、 彼女をレイプしょうとしました」 「どうして、それを早く 言わなかったんだ? 裕美は、無事だったのか?」 「彼女は、寸前のところで オレが見つけて難を逃れました。 しかし、どうしてもヤツらが 許せなかったんです」 「ドリームランドの追っかけ本が、 書店に出回っていたのは知っていた。 オレは、劇団員に 危険が及ぶかもしれないと思い、 発行元の出版社に発行を中止するように 裁判の準備を整えた。 だから裕美に、この後の危険は心配ない」 「寛さん、オレはタイムトラベルを 辞めることになるって 覚悟をしていました。 ひろみは、オレが芸能界の仕事がなくなっても、 オレについて行くって言ってくれました。 オレは、ひろみを愛しています」 オレは、寛さんにすべて話した。 これで、もう悔いはないとそう思っていた。
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