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プロポーズ
しばらくたってから、寛さんが言った。
「拓哉、おまえに裕美のことを
話す時が来たのかもしれないな」
「それは、どういうことですか?」
「裕美は、もともと体が弱い。
世間では、裕美のことを
オレのカミさん瑠璃子以来の女優に
なると言っているが、それは裕美が
健康であれば期待ができる話だ。
裕美には、まだ花のうちに
劇団を辞めさせて静かに
暮らすほうがいいだろう。
そう思った時にタイムトラベルで、
おまえと組むことになった。
メンバーの中に裕美を入れてみて、
年が近いおまえと仲良くなればと
願っていたんだ。
そしておまえは、裕美と恋に落ちて
愛し合うようになった。
今のおまえなら、
裕美を安心して任せられる。
裕美のことを大切に守るだろうと
オレは思った。
拓哉、裕美のことを頼んだぞ」
「寛さん」
オレは、寛さんの思いがけない
言葉にびっくりした。
寛さんは、オレとひろみのことを
知っていて、今まで見守って
くれていたんだ。
「寛、お話はすんだ?
コーヒー、入ったわよ」
瑠璃子さんが、コーヒーを持って
部屋に入ってきた。
「ひろみちゃん、拓哉くんとのお話が
終わったみたいよ」
えっ?ひろみが来ているの?
びっくりしたオレに
瑠璃子さんが言った。
「ここはね、ドリームランドの
劇団員の集合場所でもあるの。
ひろみちゃんが、拓哉くんのことを
心配をしていたから、私が呼んだの」
「そういうことだ、拓哉。
瑠璃子、裕美が来ているなら、
こっちに連れてこい。
一息ついてから話をする。
拓哉を入れてゆっくりな」
オレは、何が何だか
わからなくなっていた。
しばらくして、瑠璃子さんと一緒に
ひろみが部屋に来た。
「瑠璃子先生から電話をもらって、
拓哉がここにいるって教えてくれたの」
「裕美、拓哉はおとがめなしになった。
今日のオンエアは、普段通りだ」
「ホントですか?拓哉、よかった」
ひろみはそう言って、
オレに抱きついてきた。
「おいっ、ひろみ」
「だって、拓哉がおとがめなしで
うれしいんだもん」
ひろみが、こんなに心配をしていて
くれたのが、オレはうれしかった。
「あっ、メール。彰からだ」
オレの携帯に、彰からメールがきた。
彰のメールには、
「今日のタイムトラベル出られるのか?
和彦が、心配をしていたぜ」
と書いてあった。
そしてオレもメールで彰に、
「おとがめなしになった。
今日は、普段通りにやるからな」
と返事を書いた。
しばらくして彰からメールがきて、
「よかったな。
今夜、楽しみにしているぜ」
と書いてあった。
それからオレは、ひろみを連れて
瑠璃子さんの実家の喫茶店を出た。
瑠璃子さんがオレたちが帰りがけに、
「ここの近くに、大きな観覧車が
あるから二人で行ってみたらいいわよ」
と言ってくれた。
「なぁ、ひろみ」
「なぁに?」
「今から、観覧車に乗らないか?
オレたち、付き合ってから
昼間にデートするなんてなかったから」
「でも、拓哉は学校停学じゃないの?」
「今は、まだ夏休み。オレの停学は、
二学期の始業式からだから問題ないよ」
「そうなの?」
「いいから行こうぜ」
心配をするひろみをよそにオレは、
ひろみの手を引っ張って、
二人で観覧車のある建物に行ってみた。
そこは、ドーム型の球場があり
デートスポットになっていた。
オレたちは、さっそく観覧車がある
場所に行き、二人で観覧車に乗った。
デートするなんてなかったから、
うれしい気持ちになっていた。
オレは、ひろみにキスをしていた。
「拓哉が、おとがめなしでよかった」
「心配をしてくれてありがとう。
ひろみ、今日は思いっきり遊ぼうぜ。
おまえ、タイムトラベルまで
時間は長いぞ。
爆弾止めを持ってきているか?」
「大丈夫よ、持ってきているから」
「ひろみ、オレはまだ駆け出しだから
芝居の力はついていない。
今、こうして人気があるのも
オレのおやじ、浜崎勇次の息子だから
であって、オレ自身の力じゃない。
まだ寛さんのそばで芝居の力を
つけないといけないと自分で思ってる。
ひろみ、オレが舞台や芝居の力を
つけたなと思った時にオレは、
おまえと一緒になりたい。
そう言っても、
長くはかからないと思う。
オレが高校を卒業して、
おまえが大学を卒業する頃までには、
自分自身の力をつけていく。
だから、オレと一緒になってくれ」
「拓哉、今の言葉ひょっとして
プロポーズなの?」
そう、オレは観覧車の中で
ひろみにプロポーズをしていたのだ。
照れくさくなったオレは、
「あぁっ、同じこと二度も
言わせるつもりか?」
とぶっきらぼうに返事をしていた。
初めは驚いたひろみだったが、
しばらくしてうれしい気持ちになり、
「ありがとう、拓哉。うれしいわ」
と言った。
「返事は、Noはナシだからな」
とまたぶっきらぼうに
言ったオレだった。
ひろみは、そんなオレの耳元で
プロポーズの返事だろうか
「Yes,please」
とささやいたのだ。
そんなひろみの返事を聞いた
オレは、うれしかった。
「ひろみ、その返事は
確かに受け取ったぜ。
必ず、自分の力つけて
おまえと一緒になる。
長くは、待たさないからな」
「拓哉、私待っています。
それから、よろしくお願いします」
ひろみにプロポーズしたオレは、
必ず自分自身で舞台や芝居の力をつけて、
ひろみと一緒になると決めた。
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