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4人でプラス
2学期が始まってから一週間がたち、
オレは停学がとけて初登校になりました。
今日は、久しぶりに尚志と登校です。
「拓哉、よかったね。停学がとけて」
「あぁっ、一週間夏休みが
延長になったと思ったら、
気楽に過ごせたぜ」
「その代わり、夏休みの宿題の提出も
待っているんだぜ。
宿題を出していないのは、
彰と拓哉だけだから」
「まいったな、停学の間に
宿題が全部クリアできてよかったよ。
とくに英語の宿題は、
わけわかんなかっただろ?
ひろみに教えてもらって
やっとクリアしたよ。
持つべきものは、
英語専攻の彼女の家庭教師だね」
「なるほどね、ひろみさんの大学は
英米文学科だもんね。
さすがに、英語のほうの
心配はなさそうだね」
「そうなんだよな」
「ところでさ、拓哉」
「なんだよ?」
「おまえ、おやじさんとケンカして
家を飛び出した時、どこに行っていたの?」
「ひろみの部屋にいた」
「やっぱりな。
ひろみさんにいないって頼んだんだ。
それは、もうどうでもいいけどね。
単なる親子のけんかだから」
尚志と話しているうちに、
学校の校門に着いた。
校門をくぐったオレと尚志は、
まっすぐ教室に行った。
教室には、同じく
停学がとけたばかりの彰と和彦が、
先に自分の席に座って待っていた。
「おはよう」
「おはよう、拓哉、尚志」
「オッス。彰、停学とけてよかったな」
「お互いにな。こっちは
藤原たちが出て行ったおかげで
寮の大掃除もできて、寮は平和になったぜ」
「それはよかったな。
藤原たちが寮から出て行ったら、
寮の生活もだいぶ変わっただろうぜ。
実はな、おまえらがそろったら
話そうと思ったことがあるんだ。
ちょっと、かたまれよ」
オレは、尚志たちを自分の席に集めて
話をしようとしていた。
「オレさ、ひろみと結婚することにしたから」
「はぁっ?
今、なんて言った?
結婚って?」
「熱、あるんじゃないの?
まだ、夏休みボケ
残っているんじゃないの?」
「拓哉、ひろみさんの家知っているのか?
日舞藤村流の家元だぜ。
家元には、ちゃんと話をしたのか?」
「話したよ。停学期間中に
オレのおやじにひろみを会わせたし、
藤村流の家元である
ひろみのおやじさんにも会ってきた。
だから、結婚については了承済み」
「だけど、結婚といっても
オレたち16だぜ。
結婚する年齢がくるまで
3年はかかるんだぜ」
「やったろうじゃねぇか。
それまでに、自分の舞台や芝居の力をつけられる。
そのころには、ひろみも大学を卒業しているからな」
とうとうオレは、尚志たちに宣言した。
3年後に、自分の舞台や芝居の力をつけると。
オレの話を聞いてびっくりしている
和彦と尚志とは対象に、
彰はオレの話を冷静に聞いていた。
そして、オレの話を聞いて
クスクス笑ってオレに言った。
「おまえほどの大胆な男は、見たことないぜ。
停学中に喫茶店に行くわ。
そのあとは、タイムトラベルが始まるまで、
ひろみさんとデート。
極めつけは、観覧車で
ひろみさんにプロポーズだからな。
拓哉、停学中に喫茶店に行ったのが
小川にばれたら、大変なことになっていたぜ」
「プロポーズは、口が滑ったというか
昼間のデートで浮かれていたのもあったんだよな」
「拓哉、それは違うな」
そう言って彰は、静かに
自分の意見をオレに言った。
「おまえが、今まで芸能界で仕事ができたのは、
おまえが浜崎勇次の息子という肩書があったからだ。
だけど、おやじさんがいなくなって、
その肩書がなくなったら、
おまえは芸能界で仕事するのは難しい。
おやじさんが、おまえを三上寛のそばで
仕事をさせたのは、おまえに
舞台や芝居の力をつけさせて、一人でも芸能界で
仕事ができるようにしたかったんだろうな。
ひろみさんとの結婚は、おまえが
自分の芝居の力をつけたいという気持ちを
奮い立たせたきっかけだとオレは思っている。
頑張れよ、拓哉」
「ありがとう、彰。おまえって大人だな。
いつも落ち着いているんだからな」
「おまえとは、藤原と大立ち回りを
演じた仲だからな」
「そうだな。おいっ、見ろよ。
和彦と尚志だけど、
あんなに仲が良かったかな?」
「マイナスとマイナスのかけ算だな」
「また、出たな。
おまえのプラスとマイナスの法則」
「あぁっ、あいつらは
二人でプラスになるからな。
それからな、4人でつるんでいて
面白いこと見つけたぜ」
「なんだ?」
「オレと和彦は、かけ算してマイナス。
おまえと尚志が、かけ算してもマイナスだ。
しかし、2人でマイナスどうしを
かけ算したら4人でプラスになる。
だから、オレたち4人がつるんでいける」
「なるほど、4人でプラスか。
うまくできているな」
4人でプラス。
だから尚志たちとつるんでいける。
4人の中で、一番落ち着いているのが彰。
そして、いつも一歩先を見ているのも彰だ。
いつも、オレの話を冷静に聞いて
違う面で答えを出す。
ほんとに、大人の考えを持っているヤツだよ。
「おいっ、いつまでベラベラ話してるんだよ。
和彦、おまえ尚志と漫才やれよ。
声優より現実的だぜ」
「彰、そりゃないだろ?
勘弁してよ」
「そりゃいいや。
尚志のおやじさんの下で付き人をしていたら、
尚志とやれるんじゃないか?
オレのおやじでは、付き人は大変だからな」
「なんだよ、拓哉まで」
「でも、面白いかもね。
和彦と話すと楽しいから」
「なんだよ、みんなそろって
オレの顔をジロジロ見てさ。
オレの顔に何かついている?」
しばらくしてから、
オレは和彦に言った。
「おまえが、一番変わったって
言ったんだよ」
「ほんとにそうだよな。
チビの頃から泣き虫で
オレは、こいつの代わりに
ケンカしたんだからな」
「和彦、おまえは今まで
自分の言いたいことを飲み込んで
吐き出すことができなかった。
だけど、オレと彰の停学が決まった時に
初めて自分の気持ちを吐き出すことができた。
あの時、停学処分が
覆らないのをわかっていながら、
先生の所へ行こうとした。
そうだろう?」
「あの時は、悲しかった。
オレを助けようとして、
彰も、拓哉も、学校を停学になった。
なのに藤原たちが、
おとがめなしなら許せなくて、
先生のところに行こうとしたんだ。
ただそれだけ」
「藤原のことは、終わったことだ。
おまえが、責任を感じることない。
もう、終わりにしょうぜ」
学校停学で、一回り成長した和彦。
これで、新たに4人でつるんでいける。
4人でプラス。
オレたちは、4人で
これからもつるんでいけるだろう。
彰、和彦、そして尚志、
おまえたちがいるからオレは頑張れる。
いつか、それぞれの道を歩む時まで
4人で歩いて行こうとオレは思った。
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