友情

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友情

それからオレは、尚志たちと一緒に お好み焼き屋を出て家に帰るところだった。 そして、学生寮の彰と和彦にあいさつして 帰ろうとした時のことだった。 「オッス、委員長」 「中島、今からどこに行くんだ?」 「彼女とちゃんと 話し合うことにしたんだよ。 それで、きちんと 現実と向き合おうと思っている。 そんなわけだから、今から出かけてくるよ」 「門限には、ちゃんと戻ってこいよ」 「わかっているよ、じゃあな」 オレの気持ちが、中島に通じてよかった。 どうか、このまま二人の愛の結晶が 傷つくことないようにと オレはひたすら祈っていた。 それからすぐにオレは、 尚志と駅に向かうまで話をした。 「なぁ、拓哉」 「なんだ?」 「中島って、不良グループの リーダー格のヤツだぜ。 どうやって、おとなしくなったんだろう?」 「言っただろう? マタタビを少々使ったって」 「マタタビねぇ、おまえらしいや。 これで、中島のグループが おとなしくなればいいね」 「そうだな」 「拓哉、おまえ中島に 弱み握られたりしていない?」 「全然、弱みを握られるどころか 逆に礼を言われたよ」 「えっ?どうして?」 「藤原をやっつけてくれて ありがとうって言っていた」 「あいつが、ありがとうって? 信じられんねぇ、マジかよ?」 「だから、あいつにマタタビを 使ったって言っただろう?」 「今日は、変な一日だったな」 「たまには、いいんじゃないの? こんな日もあったってさ。 人生は、長いんだぜ。 おもしろおかしくやったって。 人の迷惑をかけなきゃ、 オッケーじゃないの?」 「それは、言えているね」 気がついたら、今は帰り道の電車を 二人で待っていた。 しかし、こんなにめちゃくちゃに かき乱された1日はなかった。 高校に入ってから、こんなに振り回された 1日は初めてだった。 今日のことで、クラス委員という 大きな役職をしっかりやらなければと そう思っていた。 「拓哉、電車くるよ」 「おうっ、今行く」 そしてオレは、尚志と一緒に電車に乗り 家に帰った。 「拓哉、また明日な」 「おうっ、またな」 そして、尚志とオレは それぞれの家路に帰っていた。 「ただいま」 「おかえりなさい」 「母さん、ハラへった。メシ、まだ?」 「顔を見たら、 いつも同じセリフを言うんだから。 まだお夕飯の支度中だから、 お父さんのおつまみでも食べていなさい」 「おやじ、帰ってきたんだ。 しょうがねぇか、様子を見に行くか」 「拓哉、お父さんのところへ行くなら、 お酒を持って行ってちょうだい」 「はーい」 そしてオレは、酒を持って おやじのいる茶の間に行ってみた。 「ただいま、おやじ」 「おうっ、拓哉。帰ってきたんか」 「ずいぶん、上機嫌じゃん」 「まぁな、今日の客の入りが 満員御礼やったさかいな。 拓哉、学校でクラス委員を 引き受けたそうやないか」 「あぁっ、信じられないだろ? 高校に行くなんてとんでもないって 言っていたオレが、 クラス委員をやるなんて」 「ほんまやな。せやけどクラス委員を 引き受けた限りは、しっかり先生の 信頼をもらわなあかんさかいな」 「どういうわけか、委員長をやっている 友達がオレに引き受けてくれって、 クラスの連中の前で言ったもんだから、 引き受けざるを得なくなったんだよな」 「ええやないか。 そこまで、おまえを見込んで 頼んだんやからええことやないか」 「ところが、軽い気持ちで 引き受けただけに、クラス委員って こんなに難しいもんなんだって痛感したよ」 「どんなことでも、 壁にぶつかる時があるもんなんやで」 「そういうもんかな?」 「そういうもんや。 人生は七転び八起きって言ってな、 何かで失敗しても立ち直るように できているんや。 まぁ、しっかりやれや。 おまえをそこまで信頼している 友達のためにも頑張らばあかんで」 「お父さん、拓哉、おなかがすいたでしょ? お夕飯ができたわよ」 「おぉ、しゃべっていたら メシの支度ができたようやな」 「オレ、腹ペコだよ」 今夜は、なぜかおやじとおふくろの そばにいたいと思ったオレだった。 「拓哉、今夜はどうしたの?」 「別に、何もないよ」 「いつもだったら家に帰ってきて、 すぐにひろみさんのところに出かけるのに」 「ひろみは、ドリームランドの 舞台稽古なんだよ」 「今度のドリームランドの舞台は、 古典物やさかいな。 ひろみちゃんも、真剣になっているんやな。 毎日、おまえと イチャイチャするだけと違うで」 「そりゃないだろ?」 だけど、たまにはこうして おやじとおふくろと 話してみるのもいいなと思った。 家族水入らずで食事するなんて、 めったになかったからすごく新鮮だった。 「おやじ、オレが 二十歳になった頃には 一緒に酒が飲めるから 楽しみにしてくれよな」 「そんな先のことは、わからんわ。 でも、親子で差し向かいで 飲むのもええもんやな。 拓哉、おまえは最近ひろみちゃんの お父さんに踊りの稽古をつけて もらっているそうやないか。 しっかり、頑張れよ」 「ありがとう、おやじ」 今日は、いろいろと振り回されて疲れた。 めずらしく、ひろみに会いに行くことが できないくらいクタクタに疲れていた。 そう思っていたら、オレの携帯に ひろみからメールがきていた。 「拓哉、今日は疲れているのかな? 私は、今やっと舞台稽古が 終わったところです。 もうすぐ、初日なので最後の頑張りです。 拓哉に会えなかったのは寂しいけど、 あたしも頑張るからね」 そして、オレもひろみに メールの返事を送った。 「今日は、会いに行けなくてごめんな。 だけど、最後まで頑張れよな」 オレも、ひろみも、自分の力で 頑張らなければと願っている。 さらにオレには、自分の芝居の力を つけるという目標があるのだから。 それを果たして、必ずひろみを迎えに行く。 オレは、早くそんな日が来ないかと 願っていた。 「追伸、拓哉が大好き!」 茶目っ気の文面にドキッとしたオレ。 そう、このメールはひろみからだった。 ひろみは、ときどきドキッとする メールを送ってくる。 だけど、なんだか今日のメールは うれしかった。 初めて心を通わせた頃を、 思い出させてくれたから。 ひろみ、オレも大好きだよ。 いつまでも、二人でつながっていこうな。
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