タイムトラベル

1/1
前へ
/53ページ
次へ

タイムトラベル

進路指導は、 毎回親と同伴でおこなわれる。 だけどオレは、いつもおやじと 同伴で進路指導に行く。 尚志や他の連中は、 おふくろさんが同伴なのに…。 まったく、うんざりしています。 そして今日はオレの面談の日で、 オレはおやじと一緒に学校に行きました。 「あーぁ、うざってぇ。 早く帰りたいぜ」 それを聞いていたおやじは、 「やかましい! おまえが、しっかり勉強しているか ワシが、ちゃんと見届けなあかんやろ! ラジオの仕事やってから、 成績が下がったなんてなったら、 親の監督が不行き届きになるやろ!」 と怒鳴ったのだ。 すると、オレも負けずにおやじに言った。 「なんで、おやじがオレの学校に 来たがるんだよ。 心配しなくても、それなりに 勉強はやっているのに」 するとおやじは、オレに言った。 「中学三年ってのはな、 高校進学か専門学校か、 ちゃんと上の学校に行くのが当たり前や。 とくに、おまえは数学が嫌いやからな。 いつも、寛治の息子の尚志に ノートを借りて宿題 ごまかしとるらしいやないか!」 なんで、バレてるんだよ? まさか、漫才のネタに されたりしていないよな? オレは、おやじとたわいのない ケンカをしながら自分の教室に着いた。 ちょうどその時、尚志が おふくろさんと一緒に 教室から出てきたところだった。 「拓哉」 「おぅ、尚志。終わったか?」 「終わった。こってり絞られた」 尚志が、シーラカンスババァに 絞られたくらいなら相当やられるなと オレは思った。 「はい、次。城島くん、お入りなさい」 いよいよ、オレの番がきた。 オレは尚志に、 「行ってくるわ。 シーラカンスババァの演説、 やたらと長いからな」 と言った。 すると尚志も、 「幸運を祈っているよ」 と言った。 そしてオレは、教室に入って おやじと一緒にシーラカンスババァの 話を聞くことになった。 「さて、城島くんの成績なんですが…」 『うわーっ、演説が始まったよ』 とオレは、内心ビクビクしていた。 ところが、シーラカンスババァは 説教どころか逆にオレを 褒めていたのだから驚いた。 「数学は、私が担当しているのですが、 数学の成績が上がっているんですよ」 と言ったのだから…。 それを聞いたおやじも驚いてしまって、 「先生、それはホンマでっか? こいつ、数学は公式を覚えるのが 嫌いで心配していたんですわ。 しかし、成績が上がっているって ホンマかいな」 とびっくりしていた。 するとシーラカンスババァは、 「三年になって、私が担当してから 数学の成績は上がっています。 あと国語と英語も、平均点並みで 頑張っていますよ。 二年生の担任の先生が、城島くんの進学を 心配していましたからね。 あとは、城島くんが頑張って 今の成績を維持していれば、私立ですが 高校進学の可能性もあります」 と言った。 高校進学、今まで考えてなかった ことが現実になっている。 寛さんからの 「高校だけは出ておけ」 の言葉が、強くオレの心に残っている。 その高校進学が、 現実的になってきたことに、 オレは必ず高校に行こうと思った。 そして、進路指導が終わって オレはおやじと学校を出た。 おやじは、 「三上寛に、おまえを預けてよかった」 と言った。 そしてオレも、 「おやじ、寛さんと何話したの?」 と言った。 するとおやじは、 「それは、親として頼むわって 話しただけや。 おまえが、心配することやない。 拓哉、高校進学も夢やないって 言うとったやないか。 しっかり、頑張れよ」 と言った。 オレの今の頑張りは、 おやじの励ましと寛さんや 裕美さんの励ましがあったから、 頑張れたんだと自負していた。 オレの数学の成績が上がったのは、 裕美さんのおかげだ。 以前は、数学の公式見るだけで 頭が痛くなっていたオレは、 宿題が出るたびに、 尚志にノートを写してもらっていた。 それがある日、 ラジオのオンエアの時のこと。 オレが、数学の宿題で 弱っていたのを見て、 裕美さんがオレの宿題を見てくれたのだ。 それから、数学が好きになり、 自分で宿題をするようになった。 今日は、ラジオのオンエアの日。 最近のオレは、毎週勉強道具を持って スタジオで勉強している。 「拓哉くん」 「洋さん、おはようございます」 「おはよう。勉強は、 はかどっているかな?」 「なかなか、難しくて大変ですよ。 早く終わって、 スッキリしたい気分ですよ」 「なるほどね。僕も入試をやってきて いるから、拓哉くんの気持ちわかるよ。 あと一息だから、頑張って」 「はいっ、ありがとうございます」 洋さんの何げない言葉でも、 今のオレには励みになる。 頑張って、尚志と同じ学校に行きたい。 今は、そんな気持ちになっていた。 オレの高校入試は、来年の2月。 裕美さんの大学入試は、 今月の初めだったから、 合格通知が来たかな? 裕美さん、今日はまだ来てない。 どうしたのかな? 「おはよう」 寛さんだった。 裕美さん、まだ来ない。 どうしたのかな? 「おいっ、拓哉。 おまえ、何ふてくされているんだ?」 と寛さんがオレに聞いてきた。 オレは、 「なんでもないですよ。 早く、試験が終わって スッキリしたいですよ」 と言った。 すると寛さんは、 「そりゃ、そうだよな。 しかし、人間こういう試練を 乗り越えてこそ、芸に深みが出る。 まだまだ人生、先は長いんだぜ。 頑張れ、拓哉」 と言った。 寛さんが、言わんとしていることは わかるよ。 だけど、今日は裕美さんが まだ来てないのが心配なんだよ。 「おはようございます」 裕美さんが、やっと来た。 裕美さんは、走ってきたのか 息をハァハァいって 「遅くなってごめんなさい。 大学の合格通知が、今日届いたから。 ほらっ、見て。 拓哉くん、あたし大学合格したの」 と言ったのだ。 オレは驚いたけど、 「えっ?ほんと? 裕美さん、おめでとう」 と裕美さんに ねぎらいの言葉をかけていた。 裕美さんも、うれしそうに、 「ありがとう、拓哉くんも頑張ってね」 と言った。 裕美さんが大学合格。 今日のラジオは、楽しくなりそうだ。 その喜びに浸っていた時寛さんが、 「喜ぶのは、後だ! 早く、裕美もスタンバイしろ! 本番、入るぞ!」 と言った。 「はいっ」 寛さんに言われて、 オレも裕美さんもスタジオの席に 座った直後に本番が始まった。 「こんばんは、タイムトラベル水曜日。 担当の三上寛です」 「城島拓哉です」 「朝霧裕美です」 「川添洋です」 メンバーの名前を言って、 ラジオのオープニングが始まった。 寛さんは、ラジオのオープニングで、 「今日は、本番前に ハプニングが起こりまして、 裕美が遅刻をしました」 とリスナーに言った。 すると裕美さんも、 「遅刻常習犯の寛さんに 言われたくないです」 と負けずに返していた。 オレも負けずに、 「そうだよな。 いつもスタジオを最後に入るのは 寛さんだもんな」 と言った。 「こらっ、拓哉。 なんで、おまえが絡んでくるんだよ」 と寛さんは、オレに絡んできたのだ。 オレも負けずに、 「だって、寛さんの遅刻って 理由なしじゃん」 と言ってやった。 「偉そうに言うなよ。 おまえも遅刻をするくせに」 と寛さんが絡んできて 騒ぎが収まらなくなっていた。 そんな時に、 「まぁまぁ、二人とも落ち着いて。 ところで裕美ちゃん、 今日は何があったの?」 と洋さんが助け船を出してくれた。 洋さんの助け船で、 話題が変わって裕美さんは、 「実は今日は、 大学の合格発表だったんです。 それで、見事大学に合格しました」 と言った。 洋さんは、 「大学に合格したんだね。 裕美ちゃん、よかったね。おめでとう」 と言った。 裕美さんは、笑顔で 「はいっ、ありがとうございます」 と言った。 今日のラジオのオープニングは、 裕美さんの大学合格で盛り上がっていた。 しかし洋さんは、寛さんとオレの フォローをうまくやってのける。 アナウンサーだから、 うまくリスナーの心をつかんでいる。 寛さんにはない持ち味を 洋さんは持っている。 オレも、いつかは寛さんや 洋さんみたいになりたいとそう思った。 オレ、早く裕美さんとの距離を縮めたい。 気持ちが焦るばかりで、 今はどうしていいかわからない。 決めた! 試験が終わったら、裕美さんに告白しよう。 それまで頑張って勉強する。 あの時、裕美さんから頑張ろうって 言葉をしっかり刻んでオレは頑張る。 だけど、その反面何かきっかけが ほしいなぁと考えてしまうオレだった。
/53ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加