ファーストキス

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ファーストキス

オレが、裕美さんに話をしてから 長い時間が過ぎた。 「拓哉くん、ありがとう。 私のこと、そこまで 思っていてくれていたの?」 裕美さんが、泣いている。 裕美さんの涙に驚いたオレは、 「泣かないでよ、裕美さん。 オレ、どうしたらいいかわかんないよ」 と言っていた。 心配するオレを見た裕美さんは、 「拓哉くん、違うの。私、うれしいの。 だって、私も拓哉くんが好きだったの。 拓哉くんのように人気のある人に、 女優でも名前も覚えてもらっていない私が、拓哉くんのことを好きになってしまって、 自分の気持ちを打ち明けようとしたけど、 言えなかったの」 と言ってくれたのだ。 オレは、裕美さんからの 思いがけない言葉に驚いた。 どうして、今まで 気がつかなかったんだろう? だってまさか、裕美さんも オレを好きだったなんて、 思っても見なかったのだから。 そして、お互いの気持ちを話してから しばらくしてオレは、 「裕美さんも、オレを 好きでいてくれていたんだ。 オレは、今のままの裕美さんが好きだよ。 だから、今は早く元気になって」 と言った。 「拓哉くん、ありがとう。うれしいわ」 と裕美さんは、オレに言葉を返した。 だけどオレは、裕美さんに 恋人としてみてほしい気持ちがあった。 その気持ちからオレは裕美さんに、 もう一度自分の気持ちを伝えた。 「その呼び名は、終わりにして。 これからは、キミを女として 見ていたいから。 だから、キミもオレを男として 見てほしいんだ。 わかってくれるよね?」 オレの気持ちが通じたのか、 裕美さんはオレに言った。 「これからは、 あたしをひろみと呼んで。 あたしの本当の名前はひろみなの。 あなたの前では、本当の私を見てほしいの。 朝霧裕美の私じゃなく、 石川ひろみに戻った私で、 あなたに愛されたいの。 これが、私の本当の気持ちよ」 やっと、心が通じた。 オレは、裕美さんに告白して よかったと思った。 「ひろみ、オレはおまえを愛している」 「拓哉、私もあなたを愛しています。 ずっと、一緒にいたい」 「一緒にいるよ。これからは、 オレがおまえのそばにいる」 離れたくない。 オレは、今そんな衝動にかられていた。 オレは、ひろみを抱きしめていた。 ひろみも、オレの腕の中に体を預けている。 前から触れてみたかった長い髪に、 オレの手が伸びていた。 「オレ、ひろみの長い髪に 触れてみたかった。 こうしているのが夢みたいだ」 「拓哉、あたしもよ。 今まで雲の上にいたあなたから 好きだって言ってくれてうれしかった」 「キスしていい?」 ひろみは、返事の代わりに コクンとうなずいた。 そしてオレとひろみは、初めてキスをした。 オレにとって、ファーストキス。 それは、ひろみにとっても同じだった。 くちびるを重ねあって、 お互いの気持ちが重なっていく。 不思議な気持ちだった。 オレは、ひろみとくちびるを離した。 「ひろみ、大好きだよ」 「あたしも」 思いを寄せていた初恋の人が、 今はオレの腕の中にいる。 ひろみが愛しい。 オレはそう思った。 そしてオレは、ひろみとくちびるを重ねた。 何度も、何度も、オレとひろみは キスをして、互いの愛を 確かめあっていた。 オレは、ひろみを愛している。 そして、ひろみもオレを愛している。 互いに重ねあったくちびるに、 熱い思いが伝わっていた。 ひろみに告白したその日の夜、 オレは眠れなかった。 ひろみとのキスが忘れられなくて、 なかなか眠れない。 離れたばかりなのに、会いたくなる。 そんな気持ちだった。 そして今朝のオレは、完全に寝不足モード。 学校の授業にも、身が入らなかった。 居眠りしているオレは先生の言葉が、 子守歌に聞こえてきた。 今ちょうど三時間目、数学の時間。 えっ?シーラカンスババァの授業中だよ。 「おいっ、拓哉起きろよ。 先生、怒っているぞ」 尚志が後ろで眠っている オレを起こしていた。 オレは眠い目をこすって寝ぼけて、 「先生、おはようございます」 なんて言ったもんだから、 当然クラスは、爆笑モードになった。 シーラカンスババァは、 かなりキレていたみたいで、 「城島くん、今何時だと 思っているんですか! 廊下に立ってなさい!」 と言われる始末。 眠たい。 保健室でもいいから、 寝てたいと思ったオレだった。 そして、昼休みになった。 「拓哉、どうしたんだよ。 居眠りをするなんて」 と尚志が聞いてきた。 オレは、 「夕べ、なかなか眠れなくって」 と寝ぼけ眼で答えた。 すると尚志は、からかい半分で、 「眠れないほどの悩みがあったの?」 と言ったのだ。 まだ寝ぼけ眼でいたオレは、 「そうじゃねぇよ。 おまえもわかっているくせに」 と言った。 「あっ、わかった。 昨日、裕美さんに告白したからなんだ。 それで、どうだったの?」 「うん、両思いだった。 ひろみもさ、オレのこと ずっと好きだったって」 「ふーん、そうなんだ。 こいつ、ひろみだって? すっかり、恋人モードでのろけちゃって。 オレの情報があったから 告白できたんだからな。 少しは、感謝しろよな」 と尚志は、憎まれ口をたたきながら言った。 それを見たオレは、 「ありがとう、尚志。 おまえのおかげだよ。 おまえが、ひろみの病気のことを 教えてくれたから、 両思いになれたんだからな。 やっぱり、おまえだけだな。 タレントの仕事を離れても話せるのは…」 と感謝して言った。 すると尚志は、 「なにしろ、チビからの腐れ縁。 どうやら、高校でも続きそうだね」 と言った。 オレも負けずに、 「長かった高校入試が終わって、 二人そろって同じ高校に合格だもんな。 まだまだ、これからも続きそうだな」 と言って尚志と二人で笑った。 そう月日は流れて今は2月、 オレは高校に合格した。 尚志と一緒の学校に合格して、 オレはうれしかった。 今日は、ラジオの オンエアの日でもあった。 ひろみは、今日は休み。 オレは、ひろみの見舞いに行った時に、 ひろみとメアドを教えあったのだ。 それで、ひろみがオレの携帯に メールで知らせてきたのだ。 そのメールに、 「拓哉、高校合格おめでとう。 あたしは、あさって退院します。 今日のオンエアに行けなくてごめんね」 と書いてあった。 オレもひろみのメールの返事に、 「退院するんだ、よかったな。 無理するなよ」 と書いて送信した。 オレがメールをしている時に、 寛さんがのぞき込んできて、 「何やってんだ?」 と言ってきた。 オレは驚いて、 「なんでもないですよ。びっくりした」 と言った。 そして寛さんが、オレに言った。 「おいっ、拓哉。 今日は裕美が休みだから、 裕美のコーナーを代わりにおまえがやれ」 と仕事の指示を出した。 オレは、突然だったので 「裕美さんのコーナーを オレがやるんですか?」 と聞き返していた。 すると寛さんは、 「そうだ。 裕美が休みだからといって、 番組のコーナーを休みには できないんだからな」 と言った。 「はいっ、わかりました。頑張ります」 とオレは元気よく返事をしていた。 寛さんは、スタッフと 番組の打ち合わせをしている。 オレは、ラジオの外にある メールボックスから、 ひろみが担当しているコーナーの メールとファックスの束を持って スタジオに戻った。 ひろみが元気になってよかった。 オレは、そう思った。 そして、何よりもオレとひろみの心が つながっていったことが、 今のオレには、とてもうれしかった。
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