星空の抱擁

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星空の抱擁

今日は、ラジオのオンエアの日だった。 高校の授業は、なかなか大変だ。 赤点一つとれば留年というから厳しい。 オレの担任の小川って先公は数学の担当だ。 授業は、中学の時のシーラカンスババァより わかりやすくて面白い。 「よしっ、今書いたやつを ノートに書いてまとめろ」 中学の時、あんなに大嫌いだった 方程式も、簡単にわかるように なったから不思議だ。 オレの苦手なものが 克服できたってことかな? 他の授業では、英語の先公。 チビでメガネの行かず後家のババァ。 この先公は、去年まで 女子部で教えていていたが、 今年からオレたち男子部の生活指導で やってきた先公だ。 授業も退屈だったオレは、 ひろみにメールをした。 「英語の先公、最悪。 チビでメガネの行かず後家のババァ。 授業も退屈で訳がわからない」 とひろみのメールに書いた。 しばらくして、 ひろみからメールが返ってきた。 「その先生は、あたしの 三年の担任だった先生よ。 拓哉、気をつけて」 と返事のメールに書いてあった。 ひろみは、オレと同じ高校の 女子部の卒業生。 女子部から来た先公の情報は、 ひろみから聞いていたので いち早くわかった。 なるほどな。 ひろみが、入試の時に 抵抗したのがわかるよ。 だって、このカメレオンババァは 頑固なババァだもんな。 校則には、うるせぇし授業だって、 まともに聞いてられないぜ。 それから放課後になりオレは、 今ラジオのスタジオに来ています。 「拓哉くん、高校生活はなれたかい?」 「洋さん、そうですね。 なかなか中学の時と違って難しいですね」 「だけど、毎日充実しているようだね」 「それもあるかな? 新しい友達できたし」 「今が、一番楽しい時期だからね」 そう、和彦や彰という友達ができたのが、 一番うれしいと思った。 「おはようございます」 「裕美ちゃん、おはよう。 大学の初授業は、どうだった?」 「はいっ、時間が長すぎて、 退屈した授業もありました」 「これから卒業まで大変だけど頑張ってね」 「はいっ、ありがとうございます」 ひろみも充実した 大学生活を送っているようだ。 「おはよう」 「寛さん、また遅刻ですよ」 「悪い、悪い。 今日はドリームランドの舞台の 打ち合わせで遅れたんだ。 裕美、次回の舞台でのジュニアの主役に、 おまえが決まったぞ」 「私が、ジュニアの主役ですか?」 「そうだ。 これから稽古が厳しいが、 しっかり頑張れよ」 「はいっ、ありがとうございます」 ひろみが主役、ひろみの努力が報われたな。 よかったな、ひろみ。 舞台、頑張れよ。 オレはうれしそうに喜んでいる ひろみを見て、そう思った。 ラジオの番組が終わった後、 オレとひろみは二人でスタジオを出た。 空には、星がいっぱい 輝いていてきれいだった。 その星空の下でオレは、 ひろみを抱きしめてキスをしていた。 「ひろみ、見ろよ。星がきれいだぜ」 「ほんと、きれいね」 「ここで星を見るのは久しぶりだな。 一度チビの頃に、おやじが 連れて行ってくれた時以来だからな」 「そうなんだ」 「ひろみ、よかったな。 初主役、頑張れよ」 「ありがとう、拓哉」 それからオレたちはキスをした。 このまま時間が止まってほしいと オレは思った。 「拓哉、愛しているわ」 「オレも愛しているよ、ひろみ」 愛している。 言葉だけじゃなく、 今は心もつながっているのがわかる。 ひろみは、オレの腕の中にいる。 オレも、ひろみを抱きしめていると 安心できる。 オレは、ひろみにキスをして、 お互いの愛を確かめていく。 離れたくない。 オレは、ひろみが恋しくて 愛おしくてたまらなかった。 そして次の日、オレは和彦が 言ったことにドキッとした。 「拓哉、昨日のラジオは面白かったよ。 それでさ気になったんだけど、 拓哉の彼女って朝霧裕美さんなの?」 と言ったのだから…。 それを聞いた彰が、 「おいっ、今の話は本当か? 白状しろ、拓哉!」 と言って、オレの首を絞めてきたのだ。 彰に首を絞められたオレは、 苦し紛れに尚志に言った。 「尚志、おまえがしゃべったのか?」 尚志は、身に覚えがないようで、 「オレ、しゃべってないよ」 と言ったのだ。 まだ彰の腕が、オレの首から離れなかった。 「だったらなんで、 こいつらが知っているんだよ」 と苦し紛れに言うのがやっとのオレ。 「そんなの知らないよ。オレは無実だよ」 という尚志。 「苦しい、彰。もうやめてくれ」 「ダメだ。 おまえが白状するまで、 絶対に離さないからな」 と彰は言った。 和彦が言った。 「彰、もういいから離してやりなよ。 拓哉、尚志はしゃべっていないよ。 オレ、いつも思っていたんだ。 拓哉は、寛さんの絡みに裕美さんが 入ると、いつもムキになっているなって。 初めは、そんなにムキにならなくても いいのにって思ったんだけど、 拓哉が、裕美さんのことが 好きなら納得できるなって」 和彦の話を聞いて彰は、 「拓哉、和彦は タイムトラベルのリスナーだぜ。 それにこいつは、 めったなことは言わない。 もちろん、オレも秘密は守るぜ」 と言ったのだ。 和彦と彰が、そこまで言うなら 信用できるなって思ったオレは、 和彦と彰そして尚志を入れて、 オレのそばまで集めて言った。 「今から話すことを他の連中にばらすなよ」 彰は、 「わかったよ」 と言った。 そしてオレは、和彦と彰に ひろみと付き合っていることを話した。 そして、ひろみと付き合うまでの経緯を 和彦と彰に話していた。 「そうだったんだ。 裕美さんは、拓哉の初恋の人だったんだ」 「よかったじゃねぇか。 今は、こうやって付き合っているんだから うらやましいぜ。 拓哉、裕美さんと仲良くやれよな」 「彰、和彦、ありがとう」 オレにとって、彰と和彦が こんなに頼もしいヤツでうれしかった。 尚志の他に心強い味方ができたことが、 オレにはもっとうれしかった。 やっぱり持つべきものは友達だって、 おやじが話したのがよくわかった。 そしておやじが、寛さんのそばで 仕事をさせてくれたことも、 今は感謝している。 寛さんとの仕事がなければ、 オレはひろみと出会わなかったからだ。 もちろん寛さんからは、芸の厳しさを しっかり教えてもらっている。 タイムトラベルという番組が あったから、オレは頑張っていける。 和彦も彰もいつかは、芸の厳しさを 覚えて頑張っていくだろう。 オレやひろみがそうだったように、 二人が頑張ってほしいと願うオレだった。
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