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ファンとタレント
私は、石川ひろみ。
今まで、ごく普通の高校2年生だった
私が芸能界で仕事をするなんて
考えてなかった。
ただ私の父が日舞藤村流の家元で、
私が三歳の頃から踊りの舞台に
立っていただけだった。
私の友達には、ピアノと電子オルガンの
デモンストレーターになりたい
児島美由紀と、歌手になりたいと
いろんなオーディションを受けている
渡部久美子、そしてウエディング
デザイナーになりたい多嶋律子がいる。
3人とも、それぞれ自分の夢に向かって
頑張っているのに私は、今何をやりたい
のか見つけられなかった。
それは、私がストレスからくる病気に
悩まされていたから。
だから、芸能界の仕事なんて
夢のまた夢だと思っていた。
「ねぇ、城島拓哉くんよ」
久美子がアイドル雑誌を持ってきて、
私や律子そして美由紀に見せた。
城島拓哉くん。
漫才師浜崎勇次さんを、
お父さんに持つアイドルで
注目を浴びている。
彼は中学二年生の13歳、
私より三つ年下の男の子。
久美子たちには内緒だけど、
私は拓哉くんに恋をしていた。
だけど、今の私は拓哉くんとの距離が
あまりにも長すぎる。
どうしたらいいんだろう?
「ひろみは、拓哉くんのファンだもんね。
ひろみが、好きなのわかるよ。
だから、これあげる」
そう言って、久美子が私に差し出した
のは拓哉くんのブロマイドだった。
拓哉くんのブロマイドをもらった私は、
とてもうれしかった。
これで、いつでも拓哉くんと
一緒にいられる。
16歳の私は、単純にそう思っていた。
「久美子さん、サインお願いします」
久美子は、歌手を志望していて
毎回休み時間には、
久美子のサイン会に変わってしまう。
まだ歌手になっていないのに、
こんなに人気があるのに
びっくりしている私だった。
その様子に、美由紀も律子も
あきれてしまっていた。
「久美子が、歌手になったら
もっと大変だよ」
「そうね」
「ところでさ、ひろみは将来
何になりたいの?」
「私は、普通で十分だよ」
「そんなはずはないよ。
ひろみは何か弾けたいものがあるのに、
それを無理におさえているもの」
「私は、もともと丈夫じゃないから、
久美子や律子みたいな特技はないよ」
「特技なんて、十分あるじゃない。
ひろみは、日舞藤村流の名取だし、
和裁も洋裁も得意で、おまけにお茶や
お花もばっちりじゃん」
「うちは、礼儀作法には厳しいから
そうなっただけよ」
「ひろみ、あんたさ女優になったらいいよ。
あんたの顔立ちだったら人気が出るよ」
女優になる?
そんなとんでもないと私は、
そう思っていた。
だけど、その反面芸能界に入って、
拓哉くんに会いたいという
気持ちもあった。
女優になったら、拓哉くんと
一緒に仕事ができるかもしれないと
いう気持ちが私の心の中にあった。
そしてある日のこと、
久美子が私にある情報をくれた。
「ひろみ、劇団に入ってみない?」
そう言って久美子が差し出したのは、
劇団ドリームランドの劇団員の
募集のパンフレットだった。
「ひろみ、この劇団は女子だけだから
大丈夫だよ。実は私が受けようと
思っていたんだけど、
私はデビューのために
転校することになったから」
「デビューが決まりそうなの?
よかったわね」
「ありがとう、ひろみ。
だから今度は、ひろみの番だよ。
女優になりたいという
気持ちをぶつけてみなよ」
「だけど、私ピアノは自信ないなぁ」
「ピアノと声楽なら任せてよ。
あたしが、入団テストまで
特訓してあげるから」
そう言ったのは、美由紀だった。
あと残るバレエは、
私がバレエダンス部に
入っていたのでクリアできそうだ。
「久美子、美由紀、ありがとう。
私、頑張ってみる」
「ひろみが、弾けたいものが
見つかったんだもの。
私たちで応援するからね」
それから美由紀は、毎日放課後に
学校のピアノ室でドリームランドの
入団テストに向けてピアノと声楽の
特訓をしてくれた。
ピアノは、バイエル程度ひければ
クリアできると久美子の情報で、
美由紀はバイエル中心に教えてくれた。
美由紀は、音大志望でピアノの
レッスンには、かなり熱が入っていた。
いよいよ、ドリームランドの
入団テストの日がきた。
面接と実技に立ち会うのは、
三上寛先生と佐藤瑠璃子先生だ。
最初は、バレエの実技テストで
少し不安だった。
控室で待機していると、
長身で細身の女の子が声をかけてきた。
「私、矢島美紀。中学2年生、
前からドリームランドで舞台に
立ちたかったの。あなたは?」
「私は石川ひろみ、高校2年生よ」
「私たち、一緒に合格するといいわね」
「そうね、お互いに頑張りましょうね」
そして、バレエの実技テストが始まった。
振付が思ったより難しくて
うまく踊れたか不安だった。
「美紀ちゃん、どうだった?」
「難しかった。なんか、自信ないよ」
「でも、めげてもしかたないわ。
最後まで頑張って
悔いのないようにやりましょう」
「ひろみさんって頼もしいな。
私、お姉さんって呼んでいい?」
「いいわよ、私は一人っ子だから
妹と呼べる子いないから」
「ありがとう、うれしいな」
こんなに喜んでくれて、
美紀ちゃんはかわいいな。
本当に、二人一緒に合格できたら
一番うれしいなと私は思っていた。
そして、二次試験の面接で自分の
得意なものを披露することになった。
この時、私は日舞を踊った。
藤村流の名取の私だから、
得意なものといえば日舞しかないのよね。
そして、三上寛先生と
佐藤瑠璃子先生との面談を
受けることになりました。
「石川ひろみです、
よろしくお願いします」
「こんにちは。テストは
難しかったけど、
大丈夫だったかな?」
「こうして人前で、いろんなことを
やってみてもらうのは、
初めてだったので緊張しました」
「なるほどね、日舞は
とてもじょうずだったよ。
何年か習っていたの?」
「私の父が日舞藤村流の家元で、
3歳の頃から踊りの稽古を受けて
いました」
「これから劇団に入ると、
学業との両立が厳しくなりますが
頑張れますか?」
「はいっ、頑張ります」
「それじゃ、結果を楽しみに。
次は、舞台でお会いしましょうね」
緊張した面談が終わってホッとした私。
自分では悔いがないので十分だった。
それから一週間後、
家にドリームランドからの
入団テストの結果が届いた。
家に帰ってきた私は、
合格通知を開けてみた。
すると、合格していた。
通知内容には、こう書いてあった。
「石川ひろみ様。
選考の結果、あなたはドリームランドの
入団テストに合格しました。
新入団生の集合日は、2月15日です。
それでは、集合日にお会いしましょう」
いよいよ、私の女優への道が始まった
ことを、この手紙で私は実感していた。
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