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女優になりたい
劇団ドリームランドの
入団テストに合格した私。
ほんとに信じられない出来事で
びっくりして夢ではないかと思った。
この日、久美子にメールで報告したら
久美子は喜んでくれた。
「おめでとう。ひろみは女優で、
私は歌手でお互いに頑張ろうね」
とメールで書いてあった。
ありがとう、久美子。
あなたは、私が本当は
女優になりたいと思った
気持ちを知っていたのね。
知っていたから、
ドリームランドの願書を
取り寄せたんだよね?
入団テストまで、一生懸命
練習に付き合ってくれたことも
合格を喜んでくれてありがとう。
明日、美由紀にも律子にも
報告するからね。
ところが、ドリームランドを
受けたことを内緒にしていた私は、
この日の夜、両親にドリームランドを
受けていたことがばれてしまった。
「劇団に入るなんてとんでもない。
あなたは、体が弱いんだから。
あなたは、藤村流の跡を継ぐ身ですよ。
ゆくゆくは、跡を継いで静かに
暮らしてほしいの。学業は許しても、
劇団への入団は許しませんよ」
「お母さん、私の立場はわかっています。
日舞を継ぐからといって、
他の舞台やお芝居の世界を見たいと思う
気持ちを持ってはいけないことですか?
私は、ドリームランドの女優として
舞台に立ってみたいから
入団テストを受けたんです」
「なんてこと言うんですか!
女優になるなんて、大それたこと
絶対に許しませんよ!」
お母さんは藤村流の踊り手でもあり、
家元であるお父さんを支えてきた。
だから、日舞の世界で生きていくのが
当たり前のように育ってきた。
だけど、私は違うの。
日舞だけじゃなく、
いろんなお芝居が見たい。
そして、拓哉くんに会いたいの。
片思いでいいから、拓哉くんと
一緒にいたいの。
「あなたからも、厳しく言ってくださいな」
「ひろみ、劇団に入るということは
私たちが、そばにいることはできないんだよ。
それは、わかっているのか?」
「わかっています。だけど日舞だけじゃなく、
いろんなお芝居がやってみたいの」
「いいだろう、やってみなさい」
「あなた、そんなこと言って大丈夫なんですか?」
「母さん、大丈夫だ。ドリームランドの
主催の三上寛くんとは、水平塾時代に
何度か顔を合わせている。
どうだろう?
これは、社会勉強のつもりで
やらせたらどうだろうか?
いずれは、高校を卒業して
社会に出るのだから」
「社会勉強ですか?
そうですね、社会に出れば
いろいろありますからね。
わかりました、ひろみの劇団の
入団を許しましょう」
「お父さん、お母さん、ありがとう」
お父さんとお母さんに、
劇団への入団を許してもらえた私は、
女優になるための第一歩を
踏み出していた。
そして次の日、私は学校で
久美子と美由紀そして律子に
劇団ドリームランドの入団が
決まったことを話した。
「ひろみ、よかったじゃない」
「おめでとう、ひろみが頑張ったからだよ」
「美由紀、律子、ありがとう」
「ひろみはドリームランドの女優で、
私は歌手でお互いに頑張ろうね」
「ありがとう、久美子」
「これで、拓哉くんに会えるかもよ。
実は、内緒の話なんだけど…」
そう言って久美子が、
私と美由紀と律子を
輪に固めて話を始めた。
「うわさで聞いたんだけど、
タイムトラベルってラジオ番組を
三上寛さんが担当することになったの。
そのメンバーのなかに、
拓哉くんが入るらしいよ。
まだ女の子は決まってないんだけど、
三上さんのことだから、
ドリームランドの劇団員から選ぶと思うのよ」
「えっ?それってすごいじゃない。
ひろみが選ばれたらうれしいよね?」
美由紀が、そう言うと律子も言った。
「それって、有り得るかもよ。
拓哉くんとひろみが、運命の赤い糸で
結ばれていたら最高じゃない」
運命の赤い糸?
あたしと拓哉くんが?
そんなことないよ。
あたしにとって拓哉くんは、
雲の上の人だもの。
そんな彼に、恋をしても
思いは伝わらないわよ。
だけど、本当は拓哉くんに
会えたらいいなとほのかに
期待を寄せている自分がいた。
それから、二学期の
終業式の近いある日のこと。
担任の小川先生から久美子が
転校することを告げられた。
「みなさん、今まで
ありがとうございました」
久美子の歌手としてのデビューは
来年の4月、私のドリームランドでの
初舞台も同じ来年の4月と同じ時期になった。
私は来年の2月に
ドリームランドの集合日がある。
いよいよ女優としての一歩を
踏み出そうとしていた。
集合日までに、自分の芸名を
決めないといけない私。
今、そのことで頭がいっぱいだった。
「ひろみ、何を悩んでいるの?」
「うん、あのね。集合日までに、
自分の芸名を決めないといけないのよ」
「なんだ、そんなことか。
そうだ!ひろみのイメージだとね、
これはどう?
朝霧裕美、ひろみのイメージに
ピッタリだと思うな」
「朝霧裕美」
朝霧裕美、この名前は
久美子がくれた贈り物。
朝の日差しのように
明るい舞台人になってほしいと
いう思いでつけたという。
「すてきじゃない、ひろみ」
「ほんと、久美子の
インスピレーションは当たるからね」
「ありがとう、久美子。
私、頑張るからね」
朝霧裕美という名前をもらった私は、
2月から始まるドリームランドでの
女優としての生活に夢と希望で
いっぱいになっていた。
そして冬休みなり、
私はドリームランドでの舞台に
必要な洋物の小物を買いに
大阪に出かけていた。
バレエやダンスなどの
洋物の小物は、心斎橋のチャコット
というお店にある。
レオタードやバレエシューズや
舞台に使う化粧道具どの
必要な物をそろえるのに
毎日お母さんと二人で
大阪に足を運んでいた。
「ひろみ、疲れたでしょ。
お茶にしましょ」
お母さんと私は、大阪で偶然見つけた
ホットチョコレートのお店に入って、
ホットチョコレートを飲んでいた。
「ここのホットチョコレートは、おいしいわね」
「ホントね、お母さん」
「ひろみ、体だけは壊さないで
劇団のみなさんに、かわいがって
もらえるようにしなさいよ」
「うん」
「あなたは、小さいころから
好奇心が旺盛だったから、
今度の劇団の入団も
何かに興味を持って
テストを受けたのね、きっと。
だからといって、踊りをおろそかに
してはいけませんよ。
あなたは、藤村流の後を継ぐ
一人娘なんですから、
それを忘れないでちょうだいね」
「大丈夫よ、お母さん。
私には、踊りが一番だもの。
それの他に、私の取りえがないんだから」
「それなら、いいんだけど…」
本当は、拓哉くんに会いたいと
言ったら不純な動機になるかな?
だけど、私の女優としての
第一歩が踏む出されたばかりだ。
ドリームランドの女優として
活躍してみたい。
今まで客席で見ていた大きな舞台に
私は今立とうとしていた。
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