新入団式

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新入団式

学校も三学期になり、 2月の寒い季節になりました。 今日は、ドリームランドの新入団式です。 入団した子のほとんどが中学生で、 中学1年在学中の子から 高校3年生在学中まで 年齢の幅が広いのには驚いた。 「ひろみお姉さん」 「美紀ちゃん、美紀ちゃんも 合格したの?」 「なんとか、ギリギリセーフで 合格しちゃった。 だって、俊治先生が面談の時に 来年来なさいって言われた時は ショックだったもん」 俊治先生こと中西俊治先生の言葉に 腹を立てていた美紀ちゃん。 でも、こうして一緒に合格できて 私はうれしかった。 「新入団生は、集合してください」 声をかけてきた吉村理恵子先生と 中西俊治先生、そして佐藤瑠璃子先生、 最後に三上寛先生が 私たちの前に集まった。 「入団したみんな、合格おめでとう。 これから舞台と学業の両立が 厳しくなるが、しっかり頑張ってほしい。 それでは、一人ずつ芸名と愛称を 自己紹介してくれ」 みんな、一人ずつ自分が決めた 芸名と愛称を先生方にアピールしていた。 「安城紗香です。愛称は、みやびです、 よろしくお願いします」 安城紗香、私と同じ高校二年在学で 身長が170cmの男役を 志望している女の子だ。 バスケットボールが得意で 運動神経が抜群の女の子だ。 彼女とは、良い意味で負けたくないと 私はそう思っていた。 自己紹介も、いよいよ私の番が来ていた。 「朝霧裕美です。愛称は、ひろみです、 よろしくお願いします」 そして次は、美紀ちゃんの番がきた。 「青森瑞希です。愛称は、みきです。 よろしくお願いします」 美紀ちゃんも男役を志望しているけど、 身長はみやびちゃんより 3cm低い167cmだ。 二人が舞台で並んだら、 きっとすごいだろうなと私は思った。 そして次の子は、小柄で娘役に ピッタリの女の子だった。 「綾瀬奈美です。愛称はみくです、 よろしくお願いします」 この子は中学1年在学中で、 同期生のなかで最年少の女の子だった。 それから劇団全員の写真を撮り、 私はドリームランドの女優としての 一歩を踏み出した。 毎年4月に初舞台を踏む新入団生は、 毎年2月から初舞台で踊るダンスの稽古に入る。 今回は、吉田理恵子先生の振り付けで 踊ることになった。 それは、男役と女役がペアになって踊る スタンダードダンス。 振り付けの理恵子先生は、 元宝塚のトップダンサーで指導も厳しい。 私は、みやびちゃんとペアを組み、 美紀ちゃんは、未来ちゃんと ペアを組むことになった。 「よろしくね、みやびちゃん」 「みやびでいいわよ。ひろみちゃんの 日舞がすてきだったから覚えていたんだ。 それと私も高2在学中だから、 私たち同い年だし仲良くやろうね」 「ありがとう。あたしのこと、 ひろみと呼んでね」 どうやら、私たちは意気投合したみたい。 美紀ちゃんたちも仲良くなったみたい。 美紀ちゃんと未来ちゃんは 年齢が一つだけしか違うだけだし、 二人ともどちらかというと ピンクハウスのイメージかな? そして次の日、 学校で考え事をしていた私。 それを見ていた美由紀が言った。 「ひろみ、思い出し笑いして どうしたの?」 それに対して私は、 「えっ?何かあったの?」 と聞いていた。 「やっぱり、聞いてなかったんだ。 久美子からメールが来たの。 タイムトラベルの女の子の話だけど、 三上さんはドリームランドの新入団の 女の子を入れるって決めたそうよ」 「でも、どうしてわかったの?」 「それが、久美子の話だと 拓哉くんと歳の近い劇団員を 入れてほしいってラジオ局に 話したそうよ」 寛先生が、そう言ったの? 誰が、拓哉くんとの 番組に選ばれるの? 美紀ちゃん? 未来ちゃん? みやび? まさか、あたしは選ばれないよね? 「ひろみが選ばれたら、 拓哉くんに会えるじゃない」 美由紀の話を聞いて律子が言った。 「ひろみは、久美子からもらった 拓哉くんの写真を 定期入れに入れているじゃない。 拓哉くんに会えたら、顔が 真っ赤になるわよ」 「やめてよ、律子。 あたしが、選ばれるわけないよ!」 本当は、寛先生の番組に 出られたらうれしい。 だけど、私よりも みやびが元気で明るいし、 拓哉くんは、 明るい女の子が好きだもの。 だから選ばれるのなら、 みやびだよ。 その日、私は学校から帰ると 部屋でぼんやりとしていた。 「拓哉くんは、元気で明るい 女の子がいいよね? 私のような女の子は、ダメだよね?」 私の机に飾っている 拓哉くんの写真に 独り言を言っている私。 美由紀たちが言ったことが 現実にありえないのに、 何を気にしているんだろう? それから少ししてから、 家の電話が鳴った。 「ひろみ、電話よ。三上先生から」 「えっ?寛先生から?どうしたのかな?」 「とにかく、早く出なさい。 大切なお話のようだから」 大切なお話? いったい、なんだろう? 「お電話を代わりました」 「ひろみか?実はな、 オレの担当するラジオのメンバーに おまえが入ってくれないか?」 「私がですか?寛先生」 「おまえが新入団生のなかで 一番好奇心が旺盛だし、 日舞の他の世界を垣間見る チャンスになる。やってみるか?」 「ありがとうございます、寛先生。 私、頑張ります」 寛先生からの思いがけない言葉に 私は涙が出そうになった。 拓哉くんに会えるんだ。 夢じゃないよね? 夢なら覚めないでと私は思っていた。 それから1カ月がたち、劇団での ダンスの練習も形になった。 そして2年生から上の上級生に 初舞台で踊るダンスを 披露する日がやってきた。 ドリームランドでは初舞台生を 1年生と呼び、それから学年が 上に呼ばれていく。 上級生へのお披露目が終わって 私もホッとしていた。 ところが、ある日のこと。 1年生の1人が2年生と ぶつかってケンカになったのだ。 それは、未来だった。 未来は、日舞の授業に遅れそうになり、 廊下を走ってぶつかった。 「未来、ちょっとまずいんじゃないの?」 と美紀が言うと…。 みやびも、 「ちゃんと謝ったほうがいいよ。 あたしが、2年生の部屋まで ついて行ってあげるから」 と言った。 「そうね、どんな理由にしても 2年生に迷惑かけたんだから、 私も委員として一緒に行くわ」 「ありがとう、ひろみ」 すぐに私たちが部屋を出ようと した時だった。 「森村陽子さん、廊下へ 出てちょうだい!」 森村陽子は、未来の本名だ。 「ちょっと待ってください! いったい、何があったんですか?」 私は、とっさに2年生の委員に 事情を聞いていた。 「あなたが、1年生の委員の 石川さんね。実は、森村さんは 廊下を走って私とぶつかったの」 「そのことなら、森村さんから 聞いています。 先輩が、ご立腹なさるのも 無理はありません。 本人も反省しておりますので、 今回は私に免じて許して いただけますでしょうか?」 この時私は、先輩に誠意を 伝えなければいけないと思った。 「わかりました。あなたから しっかり指導をしてくださいね。 ただし、一言だけ言っておきます。 舞台に立てば、多くの上級生に まじって演じていきます。 これからは、上級生への心配りを 忘れないでくださいね」 「わかりました。 お言葉、肝に銘じておきます。 未来、あなたからきちんと謝りなさい」 「申し訳ありませんでした。 以後、気をつけます」 未来が謝って事なきを得たが、 これは上級生に対する 厳しさの始まりに過ぎなかった。
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