上級生への心構え

1/1
前へ
/42ページ
次へ

上級生への心構え

次の日、私は学校で劇団のなかで あったことを美由紀や律子に話していた。 「大変だったね、ひろみ。 大丈夫だった?」 「未来が謝ったから事なきを得たけど、 今後気をつけなければと思ったわ」 「劇団のなかは思ったより厳しいのね。 くじけちゃダメよ、ひろみ」 「うん、そうだね」 私は、昨日のことで2年生が 言ったことを思い出していた。 舞台では、多くの上級生がいる。 上級生の心配りを忘れるな。 私は、1年生のみんなにどうやって 伝えていいのか試行錯誤していた。 未来とケンカをした2年生の委員に 私はこう言われた。 「さすが寛先生が見込んだだけあって 度胸もあるわね。 私たち、舞台ではライバルになるかもね。 私は矢島桂、芸名は柏木桂子よ。よろしくね」 そう言って桂先輩は、手を差し延べてきた。 「石川ひろみです。 芸名は朝霧裕美です、よろしくお願いします」 「ひろみ、初舞台を楽しみにしているわ。 行きましょ、みんな」 「ひろみ、大丈夫?」 みやびが、心配して私に声をかけた。 「ありがとう、ひろみ。 あたしをかばってくれて」 と泣き出す未来。 それを見た私は、 「もういいのよ、これから 気をつけていけばいいんだから」 と慰めていた。 「私ね、日舞の世界しか 知らなかったから劇団のなかが 厳しいとは思わなかったわ。 世間知らずだったのね、きっと」 私は、劇団のなかであった 今まであったことを話していた。 「そんなことないよ、ひろみ。 2年生の委員の人がライバルとして 認めたことは、すごいことじゃない」 「そうよ、桂先輩は必ず何かの形で ひろみを助けてくれるわよ」 美由紀や律子の言うように、 私が桂先輩のライバルになれるだろうか? 「あっ、久美子からメールよ」 「今日は、ひろみの携帯に 入っているのね」 懐かしい親友からのメールに、 私はうれしかった。 「ひろみ、タイムトラベルに 出るんだって? おめでとう、よかったね。 拓哉くんと一緒に頑張ってね。 それと、劇団の初舞台を 見に行くから頑張ってね」 私は、メールを見て美由紀と律子に 久美子のメールを見せた。 「ひろみ、拓哉くんと ラジオの仕事することに なったの?すごいじゃない」 「やっぱり、拓哉くんと運命の赤い糸に つながっていたんだよ。よかったね、ひろみ」 拓哉くんと一緒に仕事ができる。 私は、うれしくて久美子に 真っ先にメールを送っていたのだ。 もうすぐ、拓哉くんに会える。 だけど、緊張しちゃうな。 だって、普段男の子と話したり しないからどうしよう。 なんだか、不安になってきちゃったな。 「ひろみ、幸せそうな顔しているね。 とにかく、ラジオも拓哉くんの恋も頑張ってね」 「やめてよ、美由紀」 顔が真っ赤になっている私。 こうしていろんなことが話せる 友達がいるのは私の一番の宝物だね。 久美子、美由紀、律子、みやび、 美紀、未来とそれぞれ 目指すものは異なっていても、 それぞれ何かを見つけている。 残る私は、今やっとそれを 見つけたばかりだ。 寛先生と一緒にやるラジオ番組に、 私は変わっていけるだろうか? 拓哉くんと会うことで、 私は変われるだろうか? 日舞の他の成果を垣間見る チャンスになると言う 寛先生の言葉を信じて 頑張っていこうと決めた私だった。 ところが、ある日。 劇団のなかで思わぬ事件が起こった。 「ひろみ、ちょっといい?」 「なぁに、圭織?」 「2年の取り巻きの行動が目に余るんや。 矢島桂本人は知らんけど、 うちら1年生への嫌がらせは メチャクチャやで」 圭織こと今井馨は、高校3年在学で 入団した最年長。 そして、私と学年委員を 一緒にしている仲だ。 「あんな、うちらへの嫌がらせが 始まったんが、ひろみが寛先生の ラジオに出るのが決まってからやねん。 せやけどな、うちらはみんなで 応援するから負けんと頑張りや」 「ありがとう、圭織。 だけど、桂先輩のことはどうするの?」 「それやけどな、取り巻きの一人が バレエシューズにガラスを入れたんや。 それを履いたゆかりが、 大ケガして治療しているわ。 うち、瑠璃子先生に今までのこと全部話して、 ゆかりをケガさせたシューズも 証拠に持って行ってん。 あとは、寛先生と瑠璃子先生の判断に 任せるしかないと思うねん」 「圭織、ゆかりのケガは長く かかりそうなの?」 「全治2週間やからな。 うちらがそろっての初舞台に 間に合うか微妙やねん」 「ごめんね、圭織。ゆかりのケガに 気がついてあげられなくて」 「ひろみが謝ることやないって。 謝るんやったら、矢島桂の取り巻きに 謝らせたらええねん」 圭織と私がやり取りしていた時に、 俊治先生から稽古場に集合しろと呼ばれた。 稽古場には、2年生が全員が集合していた。 私たち1年生も整列して集合する。 私たちの前には、寛先生と瑠璃子先生が立っていた。 「たった今、佐藤先生から1年生と 2年生でトラブルがあったと聞いた。 なんでも、ガラスの破片を入れた シューズを履いてケガをしたと聞いている。 これが、証拠のシューズだ。 また2年生の1人が1年生の部屋に入り、 シューズにガラスを入れたのを見たと 3年生の委員から報告があった。 誰がやったか心当たりがある者は前に出ろ!」 寛先生の言葉で、2年生の4名が前に出てきた。 そう彼女たちは、桂先輩の取り巻きだった。 寛先生は、さらに厳しい言葉で彼女たちに言った。 「どうして、そういうことをしたんだ? どんな理由であれ、卑劣なことは 許すわけにはいかない。 きみたちには、残念だが退団してもらう。 荷物をまとめて帰れ!」 厳しい。 これが、社会の現実なの? 私は、寛先生の厳しい言葉と 冷たいまなざしに 社会での冷たさを感じていた。 そして、事件から1週間たった ある日のことだった。 「ひろみ、3年生の人が呼んでいるよ」 「誰かな?」 学校で、私は美由紀から 声をかけられて教室の扉に行った。 「ひろみ、あんた うちと同じ学校やってんな」 「圭織、どうしたの?」 「うちな、ここの3年やねん。 ほんで学年名簿を見たら、 ひろみが2年におったから 来てみたんや。 ちょっと、外出れるか?」 「うん、いいけど」 圭織が、私と同じ学校だったなんて びっくりだった。 「あんな、矢島桂やけどな。 取り巻きが退団してから、 劇団で他の2年生から シカトされてるんやて」 「えっ?それ、本当なの?」 「ホンマや。取り巻きがおった時に いじめられた同期生が たくさんおってな、 今その子らに仕返しを されているみたいやで」 信じられない。 桂先輩が、そんな目に 遭っているなんて。 何か、私にできることないの? なぜか、一抹の不安を感じていた。
/42ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加