【1分で読める短編小説】変身!美女レンジャー

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今日夕方頃、市立高校3年生の峰岸綾子さんが下校中、刃物を持った男に襲われた所を、颯爽と現れた美女レンジャー、レッド、ピンク、ゴールド、ブラックの4人により、綾子さんは無事、保護されました。目撃者の証言によると、この時の美女レンジャーの必殺技は、美女パンチ、スレンダー・キック、悩殺チョップの3つです。 男は綾子さんの元担任教師、大川雄一31歳。綾子さんは大川容疑者が担任であった昨年からしつこく交際を迫られており、今年に入ってから学校と警察に相談していました。この件について学校側は「そのような相談は受けていない」と事実を否定しています。 一緒にいた友人A子さん「美女レンジャーが来てくれて、嬉しくて泣きそうになった。綾子も感謝していると思います」(プライバシー保護のため、音声を変えています) 事件を目撃したサラリーマンは「自分にも娘がいるので、(美女レンジャーの存在は)心強いですね」 就職活動中の女子大生たち「(美女レンジャーに)入隊したいと思って、資格を取っています」 幼稚園に通う子供たちは 記者「美女レンジャーって知ってる?」 園児「知ってる!」「カッコいい」「悪い奴らをやっつけるおねーさん」 政府調査によると、小学生女子の憧れの職業、女子大生の希望する職業ともに第1位が美女レンジャーとなっており、このような調査結果は過去初めてだと関係者は話しています。 ◇ 「今日もお疲れ~」 更衣室兼休憩室で、美女レンジャーは、今日1日の戦いを終え、スーツを脱いで寛いでいた。レッド、ピンク、ゴールド、ブラックとも、マスクを外した素顔は、美女というより「微妙」。 4人は、冷蔵庫でキンキンに冷えた缶ビールとファンタで乾杯した。 「いいことをした後のビールは最高だよね」 彼女たちが美女レンジャー第10期メンバーになってから2年が経った。 「それにしてもさ」 リーダーのレッド。46歳、夫は単身赴任中、16歳、13歳の息子は反抗期の真っ最中。 「私たちが出動するのは警察が関わらない事件の時だけでしょ。こんなにあるなんて思わなかった」 「本当ですわね。わたくしも、お仕事は、月に1回程度だと思っていましたわ」 ピンク。40歳セレブ妻。キャリアなし。 ゴールド(31歳。独身キャリアOL)、ブラック(17歳。家出少女)も頷いた。 「前はさ、自分って何でこんなにみじめなんだろって思ってたけど、美女レンジャーやって、世の中には大変な人たちがいっぱいいるって、わかった。あたしも少しは賢くなったカンジ?」 親と喧嘩した家出少女のブラックがタバコに火をつけようとするをレッドが咎めた。渋々、火を消すのを見守ってからレッドは改まった顔で話し始めた。 「私ね、世の中に役立つ、いいことをしたいと思って美女レンジャーになったんだけど、やらなくちゃいけないことは、他にあるんじゃないかって思い始めて」 「わたくしもです」 ピンクが唇を固くして言った。 「わたくしたち全員、自分に足りない何かを埋めるために、美女レンジャーになった気がしますわ。足元の問題を見つめるより、社会活動の方が楽しいし、簡単に出来ますから。でも、どんなに人の役に立っても喜ばれても、自分の心の穴が埋められなければ、幸せはやってこないのですわ」 ゴールドもビールを飲み干しながら、 「私たちさ、全然、美女じゃないじゃん。恋愛とか結婚とか諦めてた。でも、美女レンジャーになって、人気者になって、満たされたっていうか。頑張って恋愛したくなってきていたんだ」 メンバーの反応に安心して、レッドが話を続けた。 「美女ってさ、自分の現実から目をそらさない人なんだろうね。私たちもマスクを脱いで、本当の美女になろうよ」 レッドは、なんだかキラキラしている。 「来週、ダンナが単身赴任から戻ってくるの。もう一度、家族をやり直すわ」 「私ももう一度、婚活、頑張ってみる」 「あたしも親に謝って実家に帰って、大検で高校卒業する」 セレブ妻のピンクは、家にメイドがいて、仕事も家事もしたことがないのだが、 「私は、美女レンジャーのキャリアを活かして、合気道教室を始めますわ。若い女性が危険な目に遭って泣き寝入りしないように。美女レンジャーとして2年間、戦ってきたんですもの。マスクを脱いでも教えられますわ」 「さすがピンクさん」 ピンクの決意表明で話はまとまった。 「美女レンジャーの仕事って、自分を救うことだったのかもね」 翌日、4人は揃って辞表を提出した。 その頃、インターネットでは、この事件を発端にした話題が持ち上がっていた。ニュースに出ていたサラリーマンに対して、なぜ自分が女子高生を守ろうと戦わなかったのか、と。
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