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ドアから、穏やかな話し声が漏れてくる。
窓から、キャンドルの灯りが漏れてくる。
街はお祭り騒ぎだ。
首都の中枢神経である大通りは街路樹を両脇に従え、広がる景色を鮮やかな光の海へと変えている。
「何がどうして」
私は握りしめた拳を胸に当てると、大通りから外れた廃墟同然のビルの片隅でぽつりと呟いた。
ライトが当たらない所にいるからこそ、数メートルしか離れていないイルミネーションの輝きが眩しい。だからこそ、自分の居る場所が、闇のように暗く深いことを思い知る。
「どうして、こんな日なんだろうね」
「おや」
さも不思議だと言わんばかりに彼は私の顔を見返した。
影に隠れて辺りを窺っていたという理由だけでなく、彼が身に纏う墨色のモッズコートは闇に同化している。その上には、日陰を歩き慣れたネズミのような顔がくっついている。
「何がどうして」
緑と赤に彩られた、年に一度の日。
目の前に曝されたきらびやかな輝きは、余裕さの表れで、明らかに自分が嫉妬しているのを奥歯で噛み締める。
彼のような飄々とした表情を作れない。まだまだ未熟者だと観念したくなる。
「……なんで、こんな日に級友と再会するかな」
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