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元クラスメイトと、それも十年以上音信不通の学友と聖なる夜に再会するのは、どれぐらいの奇跡なんだろう。
何万分の一? それとも何億分の一?
いわゆるこれが、聖夜の奇蹟という奴なんだろうか。
「よく俺だって分かったね」
痩けた頬に目一杯笑顔をはりつけた彼は、やっぱりネズミのような愛らしさで、教室の隅の席で静かに読書していた姿とぴたりと重なった。
「そんなに仲良かったわけじゃないのに」
「まあ、確かに」
「それに、見た目だって随分変わったのに」
「……」
明らかに彼だと分かりながら、その言葉通り見た目が変わってしまったことを指摘され、なぜか見ている私の方が気不味くなった。
お洒落の為ではない、ましてや防寒の為だけではない灰色のモッズコートに埋もれた姿の彼。一方、同じく動きやすさと防御優先のブルゾンとブーツ姿の私とでは、大して差はないはずなのに。
黙りこくる元同級生に、彼はおもむろに口を開いた。
「そういえば、日本には面白い表現があるらしいよ」
「? ……どんな?」
「『クリスマス爆発しろ』」
「……どういう意味?」
乾燥した喉の奥がイガイガと痛むのを唾で飲み込みながら訊き直す。
「クリスマスが、爆発すればいい、って。……まぁ、意味的にはクリスマスイブ楽しんでいるようなリア充は爆発しろ。皆いなくなれ、ってことだよね」
滔々と説明する彼の言葉は淀みなく、まるで聖書の一節を暗誦するように、穏やかさそのものだった。
並木通りを行く人々の群れや車が、光のリボンになって街を彩っているのを、雑居ビルの片隅で、私達はその眩しさにあてられている。
遠くに聳え立つアパートのポーチに、ポインセチアの鉢が並んでいるのが目に入る。赤い弁は花びらではなく、重なった葉であることをどれだけの人間が知っているのだろう。
血の色みたいだね、と私は独りごちる。
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