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「……まあ、言わんとすることは分かるかな」
「まさに、今の私達みたいでしょ」
「本当に。クリスマスなんて無くなればいいのに」
「そう。クリスマスなんて行事、無くなればいい」
「気が合うね」
そこまで続けて、どちらからともなく口を噤んだ。
黙っていると通りの音がよく聞こえる。そぞろ歩く人達に届けられるクリスマスソングは、無垢な子供の声が重なるコーラスだった。思い思いに飾り付けられたツリーに、粉雪が舞い散り、月明かりの下でチラリチラリと揺れている。
平和そのものだ、と私は思う。
手を繋ぐ恋人達や、家族連れに清らかに鐘の音が鳴り響く。神が人々に良い知らせを告げるその音は、間違いなく私にも、そして彼の上にも注がれている。
クリスマスなんて爆発すればいい。
そう思っていたのに。
「どうしてなんだろう。今は……。見ていて、嫌じゃない」
素直すぎる私の告白に、ネズミの表情で彼は即答する。
「うん、何か分かる」
「……正直に言えば、クリスマスのキラキラした感じは、嫌いじゃないんだよね…」
陽の当たらない所にいる私達は、クリスマス前夜から浮かれ出す世間が大嫌いで、今こうして息を潜めて、タイミングを窺っている。
けれど、キリストの流した血の色のポインセチアも、幸せを運ぶ金色の鈴も、永遠の象徴のもみの木も、今はすべてがいとおしく見える。目の前の景色をカラフルに染め上げて、私の心臓の音は軽快なリズムを奏で始めた。
メリークリスマス、とかつての級友とはしゃぎたい気分になる。
(もし、そんなことをしたら鉄槌を降されるだろうな)
失言にならぬよう、慌てて祝福の言葉を飲み込む。
目の前の彼は、やはり何も動じていなかった。
「……どうして、クリスマスにこんな気持ちになるんだろう」
小さく呟く私の声は、冷気に触れて、白く固まって結晶になった。
「……そうだね」
にこりと微笑む彼の返事も、一緒に粉雪に染まった。
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