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「……本当は誰だって幸せになりたいんだ。自分が不幸になりたい人なんて、いないんじゃないかな」
黙っている私に、路地裏で向かい合う彼はゆっくりと、まるで神父のように語り始めた。
「でも、ひとつにはなれないよね」
「多分……、それぞれに言い分があるからじゃないかな」
「言い分?」
「聞いて欲しいんだけなんだ、誰もが。日陰にいたい人なんて、本当はいない。こっちの話を聞いて欲しいだけなんだよ」
「……でも」
闇に溶け込んでしまいそうな外套姿の上で、鋭く彼の目が光る。ともすると反らしたくなるのを、私は目を離さずに言い返した。
「……あなただって、私だって、皆に話を聞いて欲しいだけなら、どうしてクリスマスにこんな所にいるのかな。もし皆が私の話を聞いてくれているなら、こんな寒空の下、ガタガタ震えずにいられるのに」
聞き分けの聞かない迷える子羊のように、私は反論続ける。
「それに、そうしたら……。皆、自分の話ばかりになるよ」
そうだね。彼はゆっくりと頷いた。
「だから、スマートフォンの画面上でも、どこでも皆うるさいんだ」
だけどね、と、微動だにせず明るいトーンで彼は言葉を紡ぎ続ける。
「今なら、君の話を聞くけどね」
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