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粉雪がダンスする赤と緑の祭日。分かり合えるはずないと思っていたのに、その無垢な笑顔に堪らなくなる。
「……メリークリスマス 」
自然とそう告げていた。そしてすぐに、
「……あ」
私は黙った。対面する彼は微動だにしない。まるで、訓練し慣れてきた兵士のように。
「いいんだよ」
「ごめん。……ハッピーホリデー」
「言い換えなくていい」
彼にクリスマスはないことを分かっていて、何故かそう言いたくなった自分を恥じた。
小学生の頃、長い冬休み前にはツリーを前にクリスマスメイトがはしゃいでいるのを、彼だけは不思議そうに眺めていた。
メリークリスマス、と挨拶できない彼を私は見てみぬふりをした。
信じているものが違うから。
あの時の苦いものが喉に込み上げてくる。
「……ごめん」
「いいよ、平気だから」
一緒に平和を願いたいだけなんだ、と私は気付く。メリークリスマスでも、ハッピーホリデーでも、そこにあるのは、隣にいる人も穏やかであることへの願いだ。
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