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向かい合う彼は、こちらの素振りなど気にもしていないようだった。
手にしている亀甲を模した黒光りする物に、軽くキスをしている。
大通りの時計台の針は、もうすぐ夜九時を回る。人が溢れてきた。平和を信じて疑わない人達の群れ。
「……ずいぶんとアナログな物を使うんだね」
私が指差すと、注目されたが嬉しいのか手榴弾を掴みながら、手を振る。
「これ? 何だか仰々しいでしょ」
「ちょっ。振って大丈夫なの?!」
「大丈夫だって。未だに戦地では現役のモデルだから」
だからこそ危ないのだと言っても、彼は聞かないようだった。
「そっちは?」
「私は、これ」
「そんなに変わらないじゃん」
火炎瓶を持つ私をからかうように笑う。お互い攻撃力に関しては一時的なものにすぎない。私達を知らない人達に、お祭り騒ぎをする人達に、私達のことを分かってもらうための合図にすぎない。
そして、多分、グループからしたら私は末端で、この命は狼煙をあげる為だけに使われるのだろう。
この国の、世界の、日なたを疑いもせずに歩く人達に宣戦布告するために。
「ありがとう。話せて嬉しかった」
別れを切り出した彼は、クリスマスを知らない人達の群れに戻る。そして私も、彼とは違うけれど、私が所属する人達の元へ戻る。
それぞれの信じるもののために
違うグループ。違う考え。
聖なる夜に私達は、敵対するテロリストグループの一人として、偶然再会した。
「……じゃあ、行くね」
別の道を行くため、踵を返そうとすると、やはり明るい声で彼は私に呼びかけた。
「最後に、合図しようか」
「合図?」
「……せめて今だけは、お互いを、お互いの幸せを祈ろう」
「……分かった」
小学生の時、クラスメイト達と一緒にこの日を挨拶できなかった彼と、互いに目を合わせて、合図する。
「メリークリスマス!!」
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