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ザ・地雷原
「ちっくしょおおおおあんのクソババア!!」
おう、今日も素晴らしい荒れっぷりでござる。私はビールをちみっと飲みながら、ややドン引いた目で目の前の同僚を見つめた。
淳子が酔いどれモードに入ると、それはもう長い。荒れる荒れる。普段溜め込んでいる鬱憤がそれはもう一気に噴出するのだろう。いつもはニコニコ愛想笑いを上手に振りまくタイプの彼女だから余計にである。
幸いなのは、此処がその淳子の一人暮らしのワンルームということか。これなら酔いつぶれても、ベッドまで運ぶのはさほど難しくない。なんせ飲み会をしている同じ部屋に転がすだけなのだから。
「“田中さんがコピー機使うといつも紙詰まりするのよね、日頃の行いが悪いんじゃないの?”とか抜かしてきやがって!だったらあんたはどうなんだ!インク切れのちっとも直しておかないくせに何言ってやがんだっつーの!ていうか今日の夕方〆のFAXを昼過ぎに出してくるんじゃねー!!」
「はいはい、今日も大変だったね。お疲れ様」
「ほんとだよ、まじやってらんねーわ!!」
彼女の部署のお局様が、それはそれは面倒なお人であるらしい。淳子曰く、若い女をイジメるのを生きがいにしてそうなタイプ、であるそうだ。隣の部署なので、顔だけは何度か見たこともあるし、少しなら話も交わしたことがある。一度見たら忘れられないようなこゆーい化粧の太ったおばさんだった。ついでに声も非常に大きい。休憩室で喋っていると、すぐ彼女だとわかるほどには。
名前は、峯岸と言ったか。下の名前は知らない。淳子いわく“おばさんに似合わない可愛くてキモい名前”らしいが。まあ、半分以上は私怨だろう、名前に罪はないのだから。
「ムカついた時は、ほんとアレよね。妄想してストレス発散するしかないわ」
ビールを一気に煽りながら言う淳子。いつもより若干ペースが早いが大丈夫だろうか、と私は転がっている缶の数を数えて思う。淳子はそこそこアルコールには強いが(酔わないという意味ではなく、酔ってから限界突破するまでが長いというだけの話だけれど)、それでも何度かリバースしてとんでもないことになった現場を目撃している。酒癖は、お世辞にもいいとは言えない。
そんな彼女が心配で、なんだかんだ飲みに付き合ってやる私も甘やかしているとは思うけれども。さすがに、一人ヤケ酒した友人が自室でブッ倒れて、誰にも発見されずにそのまま――なんてニュースを翌日見かけるのがごめんなのである。
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