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「冬のお祭りは落ちちゃったけど!春のイベには絶対出すんだからね、東京ユートピアの新刊!モチ、次もカップリングは“脇設”で行くんだから!東京ユートピア万歳!設楽蓮華様ばんざーい!!」
そしてこの淳子と私には、共通の趣味がある。彼女が思い切り仰ぐ天井や壁には、私と彼女が大好きなアニメのキャラクターの推しのポスターがこれでもかと貼られていた。私達はともに、仕事の合間に同人誌を書いてイベントで売るという生粋のオタクだ。男性同士の恋愛で妄想するのが大好きな、いわゆる腐女子というやつでもある。
幸いにして、私達は好きなジャンルもカップリングの趣向も一致している。“脇設”というのは“脇坂×設楽”の二人のキャラクターのカップリングの略だ。左に来る名前が男役で、右側が女役。腐女子的には前者を攻め、後者を受けと言ったりもする。
ちなみに、この左右の逆転=リバーシブルを絶対許さない!という腐女子は多い。同じ二人の組み合わせでも、攻めと受けの趣向は固定でなくてはダメなのだ。特に、淳子のように推しが受け側で“設楽様が攻めにべたべたに愛されてるのが好きなんだから!”というタイプは尚更である。少し前にネット上で逆CP派である設脇派のファンと揉めに揉めて炎上しかかったのは記憶に新しい。固定CP&リバ禁止過激派にとって逆CPは文字通り地雷以外の何物でもない。それこそ、目に入れることさえも我慢がならなかったりするのだ、面倒臭いことに。
「イベントねえ。頑張ってね淳子。応援してるから。淳子の描くベタ甘漫画楽しいし」
私は彼女のノリに苦笑しつつ、とりあえず当たり障りのない感想を述べる。嘘は言っていない、が。
「なんで他人事なのよう。翠も参加すればよかったのに!去年みたいに合同誌やりたいねーって話してたのに、何で今回は急にダメになったのよー」
ぶう、と不満気に告げる淳子。まあ、気持ちはわかる。彼女とは同サークルで、何度も合同で本を出している仲である。小さな会社で、同じジャンルの同じCP派の仲間がいるなんて奇跡のような確率だ。淳子とオタクな趣味で盛り上がっている時は、日々のハードな仕事も忘れられるというものである。
そう、私とて企画段階の直前まで、彼女と一緒に合同誌を出す気満々だったのだ。それを直前で断られては、何で?と思うのも致し方ないことではあるだろう。
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