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「今回は俺の勝ちだな」  私のテストの点をチラリと見て、あいつは得意げにふふんと笑って席へと戻っていった。私がムスッとして解答用紙を睨んでいると、前の席の友人が 「また張り合ってるの?」 と呆れながら問いかけてきた。 「あっちが、勝手に張り合ってるの!」 「そんなこと言って、自分がいい点取った時は同じように煽ってるくせに」  その言葉に反論出来なくって思わずそっぽを向いてしまった。  あいつと私は幼馴染の腐れ縁だ。家も隣で、親同士も仲が良かったため小さい頃からよく一緒にいた。最初は仲良く遊んでいたはずだったのに、いつの間にか勝負をするようになった。どちらも負けず嫌いなので二人で遊ぶと、勝った負けたでよくケンカになった。かけっこで速かった、大きな虫を捕まえたから始まり、今回みたいなテストの点等比べられるものならなんでも勝負してきた。  絶対にどちらも、負けたや参ったといった言葉は言わなかった。その代り負けてしまったら次の時に勝てるように、こっそり練習して見返すということを繰り返していた。 …本当は、こんなひねくれた態度じゃなくって、可愛く甘えられたらよかったのに。  いつからだろう。気づいたら、ライバルみたいに思っていたあいつのことを好きになっていた。でも、今までの関係を壊すのも怖くて「好き」ということも、態度を変えることも出来なかった。あいつの興味を引けるように負けないために、ひたすら努力するようになった。 「へぇ、東帝大学希望なんだ」  あいつの友人の声にふとそちらを見ると模試結果の判定を見ているようだ。あいつは、東帝大学の経済学部希望らしい。  私は看護師になるために看護学科のある大学を希望している。東帝大には看護学科がないからどうやっても一緒の大学にはいけない。それにきっと他の希望も被ってはいないだろう。高校まではずっと一緒だった。でも卒業してしまったら、進学先も違うし、一人暮らしだって始まるから偶然会うこともないだろう。  いつまでも今の関係が続いていく気がしていたのに、そうではないことを改めて突き付けられた。こんな風に毎日顔を見ることも、勝負をすることもなくなる。  そうなる前にちゃんと告白して、この気持ちに決着を付けたい。
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